トヨタ・セリカ フォード・カプリ ヴォグゾール・フィレンザ(1) 3車3様の小柄クーペたち

公開 : 2025.10.25 17:45

クーペが人気だった時代へ合致した3台 だいぶ違う所有体験や運転体験 アメリカンな姿のセリカ 落ち着いた走りのカプリ 235台しか売れなかったHPフィレンザ UK編集部が魅力を再確認

クーペが人気を集めた時代へ合致

1973年のある日、グレートブリテン島の田舎町で暮らしていた自分を、トヨタクラウンは驚かせた。保守的な地域で、ご近所のファミリーカーはほぼ英国車。フィアットルノーですら、大胆な選択といえたのだから。

隣家が買ったのは、オレンジ色のクラウン。8歳だった筆者は、アメリカンなスタイリングに心が奪われた。真新しい車内には、スイッチがずらりと並んでいた。冷えた朝でも、エンジンは何事もなく始動。少し妬まれるほど、信頼性は高かった。

ブラウンのトヨタ・セリカ 1600 STと、ブラックのフォード・カプリ MkII 2.0S、シルバーのヴォグゾール HPフィレンザ
ブラウンのトヨタ・セリカ 1600 STと、ブラックのフォード・カプリ MkII 2.0S、シルバーのヴォグゾール HPフィレンザ    マックス・エドレストン(Max Edleston)

ボディは1年で錆び、自動車雑誌は曖昧な操縦性を揶揄した。それでも、乗りやすく壊れにくく、充実装備の日本車が、存在感を高めつつあったことは紛れもない事実だった。

この流れを加速させたのが、小柄なトヨタ・セリカ。実用的な4シーターの車内と、そこそこパワフルで燃費の良いエンジンを、色っぽいスタイリングで包んだクーペが、若者を中心に人気を集めていた時代へ合致した。

所有体験や運転体験はだいぶ違った3台

1970年代の英国で、セリカの市場を席巻していたのがフォード・カプリ。1974年には、現代性と実用性を向上させたMk IIが登場していた。そのライバルは、ヴォグゾールのフィレンザ。1973年には、ドループスヌート・ノーズのHPが追加されている。

3台のターゲット層は、明らかに重複していた。だが、所有体験や運転体験はだいぶ違っていた。今回は、その魅力を振り返ってみよう。

トヨタ・セリカ 1600 ST(1970〜1977年/英国仕様)
トヨタ・セリカ 1600 ST(1970〜1977年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

初代セリカ、TA22型は1970年10月の東京モーターショーで発表。ベースはサルーンのカリーナで、1971年に英国での販売が始まっている。お値段は1351ポンドで、当時のカプリ 1600GTより60ポンド高かったが、コスパは秀でていた。

熱線入りリアガラスにボタン式ラジオ、ハザードランプ、スモークガラス、ずらりと並ぶメーター類や時計は標準装備。曲線基調のデザインも、流行を巧みに掴んでいた。

3台では最も美しい初代セリカ

エンジンは、ショートストロークで1588ccのシングルオーバーヘッドカム(SOHC)。アルミ製ヘッドと半球形燃焼室が特徴で、ミクニ・ソレックス社製ツイン・キャブレターが組まれ、101ps/6000rpmと15.0kg-m/4200rpmが英国仕様ではうたわれた。

当時のAUTOCARの計測では、0-97km/h加速は11.5秒。最高速度は168km/hに届いた。サスペンションは前がマクファーソンストラットで、後ろが4リンク式のリジットアクスル。どちらも、コイルスプリングが支えた。

トヨタ・セリカ 1600 ST(1970〜1977年/英国仕様)
トヨタ・セリカ 1600 ST(1970〜1977年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

今回ご登場願った1台は、フィル・ウィリアムソン氏の1976年式。後期型で、フェンダーのデザインが異なる。フロントブレーキや冷却系も、改良を受けている。ホイールは13インチのスチールだったが、オーナーによって14インチ・アルミへ交換済みだ。

スタイリングは、アメリカン・ポニーカーへ影響を受けたもの。当時のトヨタにとって、北米市場は既に重要な存在だった。バンパーはボディと滑らかに繋がり、リアピラーが太く、サイドガラスはピラーレス。3台では、最も美しいといえるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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