クラブスポーツ・ポルシェ(1) 一瞬のクライマックス:911 カレラ3.2 フラット6凌ぐパンチ力:968

公開 : 2025.03.08 17:45

逆境からの脱却へ貢献したFRの968 CS

アクセルペダルを傾けると、完璧なリズムで爆発する6本のシリンダーが、ハーモニーを奏で始める。フル装備の930型911 カレラより、間違いなく甘美だ。

ところが世界は、1987年に巻き起こった株価の大暴落、ブラックマンデーに翻弄される。ポルシェのディーラーから客足は遠のき、不安定な経営状態でポルシェは1990年代を迎えた。販売は、1980年代のピーク時の半分近くまで減少したという。

ポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ(930/1987〜1989年/英国仕様)
ポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ(930/1987〜1989年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)/マックス・エドレストン(Max Edleston)

同じ頃、日本のメーカーはスポーツカーのレシピを我が物にしつつあった。対して964型911 RSの評判は芳しくなく、フロントエンジンでトランスアクスルの968の販売は、期待を大きく下回った。

そんな逆境からの脱却へ貢献したのが、968 クラブスポーツだ。イエローやライト・ブルー、ガーズ・レッド、グランプリ・ホワイトといった、鮮やかなボディカラーで注目をさらった。

今回の例のように、お望みならアマランス・バイオレットも指定できた。ボディサイドに「Club Sport」と大きなステッカーが貼られているが、良好な状態が維持され、それ以外はオリジナル状態にある。

クラブスポーツの才能の高さを、当時の自動車ジャーナリストは次々に称えた。しかも、通常の968より4797ポンドも安かった。AUTOCARは自分たちに最も笑顔を与えたクルマだと絶賛し、1993年のベスト・カーに選んでいる。

50kg軽量化され、車重は1320kg。近年は再び評価を高め、価値も見直されている。

3.0L直4のフラット6を凌ぐパンチ力

軽さを追求し、車内の快適装備の殆どを剥ぎ取った内容は、カレラ3.2 クラブスポーツへ近い。バッテリーとオルタネーターも小型化されている。フロントシートは、レカロ社製のバケット。ボディシェルは、内側まで鮮やかな色で塗られている。

アルミホイールは、17インチのカップ仕様が標準で組まれた。タイヤはヨコハマA008で、サイズは前が225/45、後ろが255/40を履く。

ポルシェ968 クラブスポーツ(1993〜1995年/英国仕様)
ポルシェ968 クラブスポーツ(1993〜1995年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)/マックス・エドレストン(Max Edleston)

968 クラブスポーツには、944でも支持を集めたオプション、通称M030パッケージが用意された。タイトなコニ社製ダンパーとアンチロールバー、928 S4譲りの大径ブレーキ、リミテッドスリップ・デフなどが、通常より20mm低いスプリングへ組まれた。

このスプリングは、フロント側が負荷が高まるほどレートも増すプログレッシブ仕様。しかし、全体のスプリングレートに変更はなかった。

フロントに載る、3.0L直列4気筒エンジンの最高出力は243psのままだったが、同時期の911へ積まれたフラット6を凌ぐパンチ力を秘めていた。2000rpm以下でのサウンドは図太く、それ以上ではバリオカム・システムが動作し、美声へ転じる。

吸気バルブのタイミングが徐々に変化し、回転数の上昇とともにトルクが湧出。身体はバケットシートへ押し付けられる。直4エンジンは扱いやすく、シャシーにはそれ以上の余力がある。

バランスに優れ、カーブへの侵入は滑らか。アクセルペダルで、自在にラインを探れる。リアエンジンのように、挙動が安定するのを待つ必要はない。

この続きは、クラブスポーツ・ポルシェ(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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