クラブスポーツ・ポルシェ(1) 一瞬のクライマックス:911 カレラ3.2 フラット6凌ぐパンチ力:968

公開 : 2025.03.08 17:45

930型911に設定されたマイナーな選択肢 968の販売へ貢献した鮮やかな軽量化仕様 993型RSへ設定されたシリアスな簡素化オプション 3種類のクラブスポーツを、英国編集部が振り返る

病みつきになる一瞬のクライマックス

レッドラインが僅かに低い。当時のオーナーの殆どは、この事実へ気づかなかったのではないだろうか。ポルシェの水平対向6気筒エンジンは、1984年には排気量が3.2Lへ拡大していた。公道では、6000rpm以上回す必要性は減っていた。

930型911 カレラ3.2 クラブスポーツの空冷フラット6を引っ張ると、6840rpmでカットオフ制御が入る。その直前に、秘めた本領が発揮される。一層滑らかに回転し、排気音も覇気を強める。一瞬のクライマックスだが、体験すれば病みつきになる。

イエローのポルシェ911 カレラRS クラブスポーツと、ホワイトのポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ、アマランス・バイオレットのポルシェ968 クラブスポーツ
イエローのポルシェ911 カレラRS クラブスポーツと、ホワイトのポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ、アマランス・バイオレットのポルシェ968 クラブスポーツ    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)/マックス・エドレストン(Max Edleston)

オールアルミ製ユニットはバランス取りされ、中空バルブが組まれ、クロスレシオの5速マニュアルがパワーを受け止めた。同等の装備を得たスポーツ・エクイップメント仕様の911より、カレラ3.2 クラブスポーツは100kg軽く仕上がっていた。

英国仕様のタイヤは、前が205/55、後ろが225/50の16インチ。価格は3万4390ポンドと、911としてはお手頃だったが、リアシートは省かれていた。サイドウインドウは手動で、ヒーターは旧式なケーブル式。ラジオも、当然のように付いていなかった。

ポルシェのエンブレムは貼られていたが、殆どの防音材も残っていなかった。相当に軽かったとしても、身ぐるみを剥がされたような内容に、共感できた当時のポルシェ・ファンは少なかった。

340台のマイナーな提案 間髪入れない鋭敏さ

1980年代のポルシェは、収益と需要の高い北米市場向けに、911を進化させることへ力を注いだ。フロントエンジンの928を開発しつつ、930型911 ターボを投入。次期964型911 カレラ4のイメージリーダー的に、四輪駆動のスーパーカー、959も発表された。

1990年代が迫る頃には、911は装備満載のスポーツカーになっていた。シリアスなポルシェを求める層も存在はしたが、カレラ3.2 クラブスポーツはマイナーな提案でしかなかった。生産数は340台。英国仕様は、53台を数えただけだ。

ポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ(930/1987〜1989年/英国仕様)
ポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ(930/1987〜1989年/英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)/マックス・エドレストン(Max Edleston)

ドアは例に漏れずガツンと閉まり、車内には当時のポルシェらしい、ビニールやアクリルの匂いが充満している。ピンストライプが施されたベルベット生地張りのシートは、しっかり身体をホールドしつつ、肌触りは贅沢な印象も醸し出す。

後方から、勇ましい低音が響く。マナーは洗練され、少し回転数を上げるだけで、公道を快適に流せる。25km/hも出ていれば、3速の許容範囲。高速域ではロードノイズが大きくなるものの、鬱陶しいほどではない。

シフトレバーのストロークは、清々しいほどショート。コクリと正確にゲートへ入る。ファイナルレシオはロングで、2速で引っ張れば110km/h近くまで対応する。空冷フラット6のレスポンスは鋭敏。カレラ3.2 クラブスポーツは、間髪入れず突き押される。

エンジンとトランスミッションのマウントは強化され、サスペンション・ダンパーは特別なビルシュタイン社製。タイヤの荷重状態や、ステアリングホイールの回すべき角度を、明確に理解できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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