不気味なほど外界から隔離 デイムラー・マジェスティック & ベントレーS2(2) 英国製V8の世界

公開 : 2025.07.13 17:50

古くから英国車でも採用されてきた、太いトルクに勇ましい響きのV8エンジン 設計の起源には日産やGMも ベントレーにモーガン、マクラーレンまで、UK編集部が個性的な10台の魅力を再確認

最高出力と最大トルクは非公表

V8エンジンの英国製リムジンといえば、ロールス・ロイスベントレーは外せない。当初、4.9L直列6気筒を搭載していたシルバークラウドとSシリーズへ、北米市場での訴求力を高めるべく用意されたのが、Lシリーズと呼ばれる新ユニットだ。

排気量は6230ccで、オールアルミ製。高級サルーンとして期待される動力性能を実現し、重さは直6エンジンと同等で、静寂性では上回った。ただし、信頼性が向上したわけではない。整備性は悪く、点火プラグの交換にはフロントタイヤを外す必要があった。

ベントレーS2(1959~1962年/英国仕様)
ベントレーS2(1959~1962年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

この頃のベントレーはロールス・ロイス傘下にあり、最高出力と最大トルクは親会社に習って非公表。高い回転数は上質さを奪う原因とみなされ、レブリミットは4500rpmに設定された。

長距離クルージングへ最適化されていたが、現実的な燃費は4.2-5.0km/Lと褒めにくかった。満タンでの航続距離は400km程度。当時は、これで充分だとみなされた。

不気味なほど外界から隔離 空を漂う雲のよう

S2の最高速度は181km/hで、0-100km/h加速は10.0秒と充分以上。160km/hでも、無音に近い空間で移動することが可能だった。実際に発進させてみると、不気味なほど外界から隔離されていることへ驚く。ロードノイズも風切り音も、最小限だ。

運転席へ座れば、長いボンネットが前方に伸び、まるで道の支配者のよう。エンジンは、遠く離れた場所で静かにガソリンを燃やす。変速も、3速から4速へのシフトアップ以外、殆ど感知できない。空を漂う雲のように、滑走する。

ベントレーS2(1959~1962年/英国仕様)
ベントレーS2(1959~1962年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

それでいて、S2はかなり機敏。ステアリングホイールはシームレスに回せ、手応えも充分に伝わる。ボディロールは小さく、ブレーキもドラムだが頼もしい。カーブが連続する道へ飛び込めば、不思議と車重が軽く感じられ、小気味いいペースを保てる。

新車時で6000ポンドの英国価格は、主な競合モデルの2倍だった。そのかわり、動的な洗練度は桁違い。高級な素材が見事な品質で仕立てられた、最高水準のサルーンを入手できた。ウッドパネルの艶やスイッチの感触1つとっても、唸ってしまう。

好調を保つには乗ることが何より大切

生産数は2000台以下と多くないが、現存率は低くない。今回の車両は、ヒリアー・ヒル社の手で走れる状態へ戻されたという。「販売中のSシリーズは少なくありませんが、本当に状態の良い個体は想像以上に少ないんです」。同社のコナー・ノートン氏が話す。

適切に設定すれば、遥かに運転しやすくなるとも説明する。「この1台は、現オーナーの要望で2000年に調達しました。クラシックカーのラリーイベントや長距離旅行を楽しまれていましたが、今はお嬢さんと義理の息子さんが大切に乗られています」

ベントレーS2(1959~1962年/英国仕様)
ベントレーS2(1959~1962年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

「好調を保つには、乗ってあげることが1番大切なんですよ」。と微笑むノートンは現在、すべてのネジとボルトを新調する水準で、ベントレーS3をレストア中。ロングホイールベースのシルバークラウドも、レストアを頼まれているとのこと。

「最近、この世代のベントレーやロールス・ロイスは価格が上昇しています。価値が認知され、お金が費やされるようになってきましたね」

協力:ヒリアー・ヒル社、ローレンス・ジョーンズ氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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