【無難ではなく指名買い】人はなぜダイハツ・ムーヴを選ぶのか?デザイナーが新型で探した求められる理由

公開 : 2025.07.02 11:05

10数年ぶりにフルモデルチェンジしたダイハツ・ムーヴ。そのコンセプトは『動く姿が美しい、端正で凛々しいデザイン』とされています。内外カラー等のデザイナーに、内田俊一が、具体的なこだわりポイントについて話を聞きました。

スタイリッシュでありながら堅実でもあり

10数年ぶりにフルモデルチェンジしたダイハツ・ムーヴ。そのコンセプトは『動く姿が美しい、端正で凛々しいデザイン』とされた。そこで、内外カラー等のデザイナーに、具体的なこだわりポイントについて話を聞いた。

ダイハツデザイン部プロダクトクリエイト室主任の河合徳明さんは、2代続けてムーヴ・キャンバスのエクステリアをデザイン。その実力やノウハウから、基幹車種である新型ムーヴのエクステリアデザインを担当することになったようだ。

『堅実スライドドアワゴン』という商品コンセプトのもと描かれた初期スケッチ。デザインコンセプトを含め、様々な方向性を探っていた時期のもの。
『堅実スライドドアワゴン』という商品コンセプトのもと描かれた初期スケッチ。デザインコンセプトを含め、様々な方向性を探っていた時期のもの。    ダイハツ

それでも、「最初の企画はバランスが大事な堅実なクルマでしたので、そのままデザインすると特徴のないクルマになってしまいます。そこでもう一段、特徴になる何かが必要でした」と当時を振り返る。そこでユーザーがどういう気持ちでムーヴを選んでいるかを考えた。

最初は「バランスがいいからムーヴを選んでおけば無難みたいな消極的な選び方」を想像していたが、月に数千台売れていることをから、「指名買いされているのではないか」と思ったそうだ。

今回のターゲットユーザー層は、「ちょうどバブル時代に青春を過ごされる方々で、いまはお子様が手離れした世代。そしてもう一度夫婦でどこかに出かけたいなという時に乗って頂くとしたら、スタイリッシュで軽快に走りそうなクルマがいいでしょう」と河合さん。

そして「実用的で堅実さも持ち合わせていること。それこそがもともとムーヴの引き継いできた魅力であり、コアの部分。そこがお客様に指名買いして頂いているポイントではないかとということに気づいたんです」と語っており、そこで掲げられたのがこのコンセプトだった。

長く、動きのあるデザインのために

エクステリアで大きな特徴はふたつ。ひとつ目はサイドのキャラクターライン周辺だ。

グリルからサイドを抜けリアコンビの手前で消えているこのラインは、繋がって見せることで、クルマを長く見せるための手法のひとつとなっている。そしてこのムーヴの見どころは、その下の『影の面』にある。

『動く姿が美しい』というデザインコンセプト立案直後、狙う方向性の意識合わせのために描かれたイメージスケッチ。青空のもとを軽快に走るシーンが意図されている。
『動く姿が美しい』というデザインコンセプト立案直後、狙う方向性の意識合わせのために描かれたイメージスケッチ。青空のもとを軽快に走るシーンが意図されている。    ダイハツ

通常、軽自動車はできる限り室内幅を取りたいので、ドアは薄くなる。その中にパワーウインドウ機構などを納めなければならないので、デザインしろがなくなり、平面な造形になりがちなのだ。

しかし、ムーヴは軽自動車としてはかなり抑揚のある面構成とされ、さらに美しい影面まで設けられた。河合さんは、「抑揚を持たせると、どうしてもキャラクターラインの下の影面が(狭くなるなどで)犠牲になって美しくないんです。しかし今回はトータルで美しく見えるよう、最後までこだわりました」とコメント。

同時に、その下の台形の造形にも意味があるという。

「これはタイヤをしっかり踏ん張らせるように見せるものですが、同時のこの台形の影になっているところが、フロントの黒いガーニッシュ下の『ヒゲ』のところに連続していて、リアも同様に繋がっているのです」と河合さん。これもクルマを長く、かつ低重心に見せるデザインの取り組みだ。

また、スライドドア車の場合、その開閉用レールがあることもあり四角くなりがちだ。しかし、Aピラーをスライドドア車の中でもかなり寝かし、ルーフはムーヴ・キャンバスなどよりも少しだけフラットにした。

「スッキリした屋根を作ることで、伸びやかに見せたいという思いからです」と河合さん。こうした積み重ねにより、単なる四角ではない動感のあるデザインが完成したのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    内田俊一

    日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も得意であらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。現在、車検切れのルノー25バカラとルノー10を所有。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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