金字塔の体験を意味する フェラーリ12チリンドリ x アストン マーティン・ヴァンキッシュ(2)

公開 : 2025.07.11 19:10

両ブランドのライバル関係を顕在化させる、12チリンドリとヴァンキッシュ 最新世代の違いとは? 運転体験へ影響を与える敏捷性 V12エンジン・グランドツアラーの真髄へUK編集部が迫る

812スーパーファスト以上の才腕

フェラーリ12チリンドリは、V12エンジンの実力へ迫るほど、DNAが通じる812スーパーファスト以上の才腕が顕になる。だが、その表出を強要されることはない。

一般道を駆け足で流す状況では、低域でのトルクは僅かに絞られる。後輪操舵システムとリミテッドスリップ・デフ、ABSは、シンクロして制御される。シャシーの電子頭脳は全力で働いているはずだが、フィーリングは至って自然。感服の仕上がりにある。

イエローのフェラーリ12チリンドリと、ガンメタリックのアストン マーティン・ヴァンキッシュ
イエローのフェラーリ12チリンドリと、ガンメタリックのアストン マーティンヴァンキッシュ    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

アストン マーティン・ヴァンキッシュより、12チリンドリはホイールベースが185mm短いうえ、後輪操舵システムが擬似的に20mm縮める。ステアリングのロックトゥロックは、前者が2.3回。後者は1.9回転と、明確にクイックだ。

車重は、オプションのカーボン製アイテムで軽量化されていたが、92Lの満タン状態で1806kg。前後の重量配分は48:52だった。他方、ヴァンキッシュは82Lが満タンで1952kg。大人2名分ほど、12チリンドリは軽い。

明らかに濃い個性 12チリンドリの好敵手

バンピーロード・モード時は、適度にロールするサスペンションへ慣れる必要はあるが、すぐに信頼関係を築ける。カーブへ鋭く侵入し、グリップ力を活かしながら脱出する一連は快感。アクセルペダルの加減で、繊細にライン調整もできる。

ボディはしなやかに上下動し、操縦性は秀抜。乗り心地も素晴らしい。快適性はスーパーサルーン級で、精度はスーパーカー、バランスの良さはグランドツアラー。12チリンドリは、唯一無二の運転体験を叶えている。刺激的でありながら、知的でもある。

アストン マーティン・ヴァンキッシュ(英国仕様)
アストン マーティン・ヴァンキッシュ(英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

対してヴァンキッシュは、V12エンジンを始動させると、パワフルさをトラッドに乗り手へ主張してくる。個性は明らかに濃い。発進させると、やはり好敵手だと実感する。

だが明らかな違いもある。ステアリングのレシオはより自然だが、必要以上に重いかもしれない。操舵時のフィーリングはやや薄く、僅かにダイレクト感が弱い。アクセルやブレーキの反応にも、同じ表現は当てはまる。鮮明な臨場感までは得にくい。

運転体験へ影響を与える敏捷性の差

12チリンドリは、完璧といえるほどコーナリングが従順。ヴァンキッシュはノーズの長さを物語るように、カーブの頂点を目がけて回頭するまでに、僅かなラグを感じる。旋回中のバランスは驚異的だが、その前に微かなアンダーステアが介在する。

後輪操舵システムが備わらないためか、フロントのグリップ力が巨大だからか、理由は定かではない。V12エンジンの搭載位置は、フロントアクスルでの比較で12チリンドリより約25mm前方だが、レイアウトが原因ではないだろう。

アストン マーティン・ヴァンキッシュ(英国仕様)
アストン マーティン・ヴァンキッシュ(英国仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

この小さな敏捷性の差が、運転体験の面白さへ影響を与える。12チリンドリもヴァンキッシュも、減速から操舵、加速という規則だったアプローチでコーナリングを堪能できる。だが前者は、思いのまま自由に操ることも許してくれる。

急な雨の中、ヴァンキッシュを追走するシーンで、それを体験した。同僚のマット・プライアーは、負荷を過度に高めないよう丁寧なライン取りを続ける。他方、12チリンドリに乗る筆者は、より滑沢にコーナリングへ興じれていたことは明らかだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    役職:ロードテスト副編集長
    2017年よりAUTOCARでロードテストを担当。試乗するクルマは、少数生産のスポーツカーから大手メーカーの最新グローバル戦略車まで多岐にわたる。車両にテレメトリー機器を取り付け、各種性能値の測定も行う。フェラーリ296 GTBを運転してAUTOCARロードテストのラップタイムで最速記録を樹立したことが自慢。仕事以外では、8バルブのランチア・デルタ・インテグラーレ、初代フォード・フォーカスRS、初代ホンダ・インサイトなど、さまざまなクルマを所有してきた。これまで運転した中で最高のクルマは、ポルシェ911 R。扱いやすさと威圧感のなさに感服。
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フェラーリ12チリンドリ x アストン マーティン・ヴァンキッシュの前後関係

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