米国で最も革新的だった自動車メーカー パッカードの興亡(前編) 各国の指導者に愛された先進性
公開 : 2025.10.04 12:05
ツァーリのツインシックス
最も奇妙なツインシックス、そしておそらくパッカードの歴史上最も異色なクルマは、ロシア最後の皇帝ニコライ2世が所有した1台だ。ほぼ標準仕様だったが、後輪がなく、代わりに大型の履帯付きの台車が装着されていた。いわゆる半装軌車だ。これにより軟弱な地面や荒れた路面(特に冬のロシアの雪道)で圧倒的なトラクションを発揮した。
こうした構造は、発明者であるフランス人技師アドルフ・ケグレス(1879-1943年)の名を取って「ケグレス式履帯(Kegresse track)」とも呼ばれる。彼は皇帝に雇われ、皇室ガレージの他の車両にも改造を施していた。

世界最速の自動車
ツインシックスに加え、パッカードは2台のV12レーシングカーを開発した。これらはエンジン排気量(立方インチ)が著しく異なることから、それぞれ『299』と『905』と呼ばれた(4.9Lと14.8L)。1919年、299はインディアナポリス500レースを完走した唯一のV12エンジン車となった。翌年、デンマークのフェヌー島海岸での速度試験中にエンジン火災が発生したが、マリア・アントニエッタ・アヴァンツォ男爵夫人(1889-1977年)が機転を利かせて海へと走らせたため、破壊を免れた。
1919年2月、ラルフ・デパルマ(1882-1956年)は905を駆り、1マイル区間を149.88mph(約241.2km/h)で走破した。しかし、これは陸上速度記録として認定されなかった。当時の記録認定ルールでは、1時間以内にコースを往復走行する必要があったが、デパルマはこれを満たさなかったからだ。ただ、当時の公式記録は124.09mph(約199.7km/h)にとどまっており、1925年まで150mphを超えなかったため、 905が当時世界最速の自動車だったと言っても過言ではない。

大統領のツインシックス
ニコライ皇帝が所有していたものとは異なり、こちらのツインシックスは4輪という点で一般的だが、知名度ははるかに高い。1921年3月、この車両は米国大統領(ウォーレン・G・ハーディング)を就任式に運んだ史上初の自動車となった。それまでは馬車がその役目を担っていた。
ハーディング自身もホワイトハウスも、この車両を所有していたわけではない。提供したのは共和党全国委員会であり、当時の報道はこれを「就任式における大統領の移動手段としての馬車の終焉を告げる鐘」と評した。
















