米国で最も革新的だった自動車メーカー パッカードの興亡(前編) 各国の指導者に愛された先進性

公開 : 2025.10.04 12:05

かつて米国を代表する高級車メーカーの1つとして栄華を誇ったパッカード。今やその名を知る人はほとんどいません。他社に先駆けて最新技術を積極的に取り込み、時代をリードしたパッカードの繁栄と衰退の歴史を振り返ります。

名門ブランドの発展と衰退

本稿執筆時点で、『パッカード(Packard)』の名が自動車業界から消えてから60年以上が経過し、新車販売が終了してからはさらに長い年月が流れている。

クラシックカーに特別な関心がない限り、その名を聞いたことがなくても当然だろう。しかしかつては、米国を代表する名門ブランドの1つだった。同時代のピアレスとピアース・アローといった、同じく頭文字に「P」を冠するブランドと並び称されたのだ。

1940年式 パッカード・カスタム・スーパーエイト・ワンエイティ・スポーツセダン――2021年RMサザビーズにて28万ドルで落札
1940年式 パッカード・カスタム・スーパーエイト・ワンエイティ・スポーツセダン――2021年RMサザビーズにて28万ドルで落札

さらに、パッカードは車内にエアコンを搭載するなど革新性で有名だった。だからこそ、その没落は一層哀れに思え、惜しまれるところである。偉大な名を少しでも長く記憶に留めるため、年代順にパッカードの物語を紹介しよう。

パッカード兄弟

ジェームズ・ウォード・パッカード(1863-1928年)とその兄ウィリアム・ダウド・パッカード(1863-1923年)は、1890年に自分たちの名前を冠する電気器具会社を設立した。自動車業界に進出したのは、8年後にジェームズがウィントン車を購入し、その信頼性の低さに不満を抱いたことがきっかけだった。彼がアレクサンダー・ウィントン(1860-1932年)に不満を訴えたところ、ウィントンは「もっと良いクルマを作れると思うなら、自分で作ってみろ」と挑発したと言われている。

パッカード兄弟の妹、アラスカ(1868-1934年)は、この事業にはまったく関与していなかったが、1920年代に女性として初めてFBIの特別捜査官として採用されたことを付け加えておこう。

左がジェームズ・ウォード・パッカード、右がウィリアム・ダウド・パッカード
左がジェームズ・ウォード・パッカード、右がウィリアム・ダウド・パッカード

パッカードの単気筒車

パッカード初の自動車は、1899年に登場した。2.3Lの単気筒エンジンの上に乗員が座る2人乗りで、わずか5台しか生産されなかった。初めて顧客に売れたのは5台目の車両だった。ジョージ・カーカムというビジネスマンが1900年1月に購入後、自宅から歩いてすぐのオハイオ州ウォーレンの工場まで引き取りに行った。

その後、モデルB、C、Fと呼ばれる単気筒車が少数生産された。最後の『モデルF』はより大型の3.0Lエンジンを搭載し、2速ではなく3速トランスミッションを備え、1903年まで生産された。同年、モデルFは米国本土を横断する大陸横断走行を成し遂げた史上2台目の自動車となり、またシエラネバダ山脈経由でこれを達成した初の自動車となった。

パッカード・モデルA
パッカード・モデルA

パッカード・モデルG

パッカードは後に多気筒車で名声を博すことになるが、単気筒以外のエンジンを導入するまでには3年を要した。1902年に『モデルG』向けに開発されたのは強力な6.0L 2気筒エンジンであり、その数少ない購入者の1人は、スタンダード・オイル社の共同創業者でJ・D・ロックフェラーの弟である大富豪ウィリアム・ロックフェラー・ジュニア(1841-1922年)とされている。

パッカードはまもなく単気筒・2気筒の過渡期を脱した。モデルGはパッカード唯一の2気筒車(ただし、トラックにも使用された)であり、エンジンが座席下に搭載された最後のモデルでもあった。

パッカード・モデルG
パッカード・モデルG

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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