ロータス・エヴァイヤはEVの究極形態? 想像を絶するトルク制御技術 英国記者の視点

公開 : 2025.11.06 17:45

4モーターを搭載するロータス・エヴァイヤは、普通のクルマのように操るだけでも膨大な計算能力を必要とします。加速もさることながら、高速コーナーでのトルクベクタリングは圧巻の一言。AUTOCAR英国記者コラムです。

複雑すぎる4モーターのトルクベクタリング

筆者は最近、驚異的なハイパーカーであるロータスエヴァイヤ』について試乗記を書いた。AUTOCAR内でのロードテスト番号は5763。これは筆者の新しい暗証番号になるはずだ。絶対に忘れないだろうから。

この仕事を始めて15年、こんなにも凄まじい加速を体感したのは初めてだ。右足をアクセルに押し付けたまま固定するよう自分自身に言い聞かせる必要があった。無限の彼方へ、突き進むために。俳優のディルク・ベネディクトが映画『宇宙空母ギャラクティカ』で母艦から飛び出す時も、こんな気持ちだったのだろうか。いずれにせよ、感覚はかなり似ているに違いない。

ロータス・エヴァイヤ
ロータス・エヴァイヤ

さて、ここでは非対称トルクベクタリングについて語りたい。筆者の夢にまで出てきた技術だが、実際にはどういうものなのだろうか?

エヴァイヤは四輪独立トルクベクタリングを搭載している。かなり完成度の高いシステムだと筆者は理解しているが、「その場でスピン」するような小技はできない。それでも別に構わない。このクルマは、トルクベクタリング技術が秘める可能性と、それを実際に使いこなそうとするエンジニアが直面する現実との間に、どれほどの隔たりがあるかを教えてくれた。

四輪独立制御の難しさ

問題は、4基の独立した電気モーターと同じ数の独立したアクセルペダルを装備しない限り、それぞれのモーターを制御するのは非常に困難だということだ(そもそも、つま先の数が足りない)。

通常の車軸を持つ従来型車両がコーナーを曲がる場面を考えてみよう。速度を維持していても、四輪それぞれがわずかに異なる半径の軌跡を描くため、各輪の回転速度に微妙な差が生じる。この「デルタ」と呼ばれる速度差を許容するのが、従来の機械式デフだ。

ロータス・エヴァイヤ
ロータス・エヴァイヤ

さらに「アクスル・ドライブ・イコライゼーション」と呼ばれる機能もある。外側の車輪に荷重が移るほどの速さでコーナーを曲がると、内側の車輪がグリップを失い空転し始めるかもしれない。だが、その瞬間、オープンデフは自動的にトルクを負荷がかかっていない側の車輪へ振り向ける。まるで密閉装置から圧力を逃がすブローオフバルブのように。車体は突然横滑りし始めることなく、安定を保つのだ。

次は、そのオープンデフが常に補正を加え続ける、もっと複雑なモデルを想像してみよう。路面のキャンバーや操舵角の変化、バンプ、リバウンド、路面グリップの変化を考慮してほしい。これはクルマの中でも特に巧妙な機械式パッシブシステムのため、機能していてもほとんど気付かないかもしれない。

ここで、これらの優れた機能をすべて歴史の彼方に追いやろう。各車輪に均等なトルクを供給することだけを追求する四輪駆動EVを想像してほしい。パワーがあろうとなかろうと、融通が利かず、不安定で、過敏に反応し、予測不能な、まさにカオスな状態になるだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    役職:ロードテスト編集者
    AUTOCARの主任レビュアー。クルマを厳密かつ客観的に計測し、評価し、その詳細データを収集するテストチームの責任者でもある。クルマを完全に理解してこそ、批判する権利を得られると考えている。これまで運転した中で最高のクルマは、アリエル・アトム4。聞かれるたびに答えは変わるが、今のところは一番楽しかった。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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