パンクな仕掛け人 ブガッティのデザイン責任者が音楽から得るもの フランク・ヘイル氏に訊く古典と現代性の融合

公開 : 2025.10.13 11:45

ブガッティのデザイナーは古典的な美しさとハイエナジーな現代性を融合させることを使命としています。その基調を定めるデザイン責任者、フランク・ヘイル氏への独占インタビューをお届けします。パンク音楽がお好きとのこと。

音楽とスピードを愛するデザイナー

「時速300km以上で走りながらザ・プロディジーの『ファイアスターター』を聴くのが大好きなんです」とフランク・ヘイル氏は言う。

ブガッティのデザイン責任者である彼のこの言葉を聞いて、「ああ、わたしも」と答える人はまずいないだろう。そんな途方もない速度に愛着を抱くにはかなりの経験が必要だし、300km/h前後で運転しながら音楽を楽しむには、車内がそれなりに快適である必要があるからだ。

フランク・ヘイル氏
フランク・ヘイル氏

だが16気筒のハイパーカーを設計するのが仕事なら、このようなレベルの速度と騒音に慣れていることは確かに有利だろう。ヘイル氏はブガッティに20年近く在籍し、2010年に約431km/hの速度記録を残した『ヴェイロン・スーパースポーツ』の開発にも携わった。そして2023年には、長年デザイン部門を率いてきたアヒム・アンシャイト氏の後任として、ブガッティと姉妹ブランドであるリマックの両方のデザイン責任者に就任する。

しかし、常に高貴な世界に生きてきたわけではない。ドイツ生まれのヘイル氏は、英国のロンドン王立芸術大学を卒業後、チェコの低価格ブランドであるスコダのエクステリアデザイナーとして職を得て、ハッチバック開発に携わるようになった。

低価格ブランドとの金銭感覚の違い

彼が最初に手掛けたのは、スコダ・ファビアをベースとするリフトバックの『ラピッド』という控えめなモデルだった。そのコンセプトデザインは偶然にも、初代ヴェイロンの基本デザインを担当した後、ブガッティからスコダへ移籍したヨゼフ・カバン氏によるものだった。ヘイル氏とは真逆の経歴である。

「オクタビア(上級モデル)を買う余裕がない層」を想定したラピッドは、実用性重視の質素な乗用車であり、ヘイル氏が現在担当する数百万ポンド級の「ミサイル」と呼ぶべき高級車とは対極の存在だ。しかし、その開発プロジェクトは、営利企業という現実が創造性に課す制約について、彼に貴重な教訓を与えたのである。

スコダ・ラピッド
スコダ・ラピッド

「ホイールベアリングをもう少しだけ高価なものにしようとして、苦労しましたよ。追加コストは1個あたり50セント(約75円)でした」と彼は懐かしそうに振り返る。その優しい笑顔は、激しい会議中の表情とは対照的だろう。「生産コストは1台あたり2ユーロ(約350円)増えることになります。それと、スタンスを良くするためにホイールのオフセットを10mm増やそうとしたのですが、提案は通りませんでした。結局、そのせいでクルマは少しナローになってしまいました……」

当然ながら、今ではもう、そんな議論をすることはない。彼が手がけるのはラピッドの千倍もする超高級車だからだ。とはいえ、コンセプト設計において軽率に浪費をしているわけではない。

「金銭面ではさまざまな議論があります。結局のところ、(ブガッティの)年間生産台数は80台に過ぎません。投資を回収するには十分な台数ではないのです。そして当然のことながら、ブランドと従業員に対して、将来を確かなものにするという責任があります」

「信じられないかもしれませんが、当社のビジネスケースは全て、非常に厳密に計算されています。NASAのように『費用は問わない、月へ行け!』というわけではありません。ビジネスとして成立し、財務的に健全でなければなりません」

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    役職:副編集長
    AUTOCARの若手の副編集長で、大学卒業後、2018年にAUTOCARの一員となる。ウェブサイトの見出し作成や自動車メーカー経営陣へのインタビュー、新型車の試乗などと同様に、印刷所への入稿に頭を悩ませている。これまで運転した中で最高のクルマは、良心的な価格設定のダチア・ジョガー。ただ、今後の人生で1台しか乗れないとしたら、BMW M3ツーリングを選ぶ。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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