なぜCEO自らステアリングを握るのか? フォード:モータースポーツ賞(前編) #AUTOCARアワード2026

公開 : 2026.07.07 17:05

プレッシャーと制約の中で最大限に楽しむ

ファーリー氏にとって、レースへの出場は多忙な日々から逃れる休息であり、ヨガのようなものだ。

「クルマに乗ってレースしていると、他のことは何も考えられません。たとえ爆弾が爆発しても、気づかないでしょう」と彼は言う。

セブリングを疾走するフォード・マスタング
セブリングを疾走するフォードマスタング

レーシングカーの運転は、「特に時間があまりない時は、謙虚な気持ちにさせられる」という。

「クルマに乗り込んで素早くスピードを上げなければならず、安全にも気を配らなければなりません。フォードのCEOとして、スタートで誰かにぶつけるわけにはいきません。エンジンの性能だけで勝つこともできません。そうすれば『特別なエンジンを搭載しているだけだ』と言われるでしょう。制約はたくさんありますが、だからこそ、良い行いをして、楽しむというプレッシャーがあるんです」

つまり、いくら現実逃避しようとしても、ファーリー氏はフォードのCEOという立場から完全に逃れることはできない。

「多くのCEOは決してこんなことはしないでしょうが、わたしの場合、身が引き締まる思いがするんです」

それでも、彼は「ビジネスの世界と同じように」競争すること自体にスリルがあると語る。セブリングでは、技術的な問題により、両レースともグリッド最後尾からのスタートを余儀なくされた。

「時には最後尾からスタートしなければならないこともあります。わたしがフォードに入社した当時も、株価はたったの4ドルでした」

単なるマーケティング目的ではない

フォードもさまざまな市場動向に左右されてはいるものの、ファーリー氏がCEOに就任した当時(本稿執筆時点で株価は約16ドル)よりも良好な状況にある。そして、その成長においてフォード・レーシングが重要な役割を果たしている。以前は「フォード・パフォーマンス」として知られていたこの部門は、同社のすべてのモータースポーツ関連事業に加え、『マスタング・ダークホース』やオフロード車『ラプター』シリーズといった高性能車も手掛けている。

フォード・レーシングのグローバル・ディレクターであるマーク・ラッシュブルック氏は、2013年から同部門に在籍しており、以前は一般乗用車のエンジニアとして働いていた。同氏は、「仕事の内容は大きく変わった」と語る。かつてはモータースポーツ事業を管理する小さなチームに過ぎなかったものが、現在ではレーシングカーや高性能車を開発する数百人規模のチームへと成長したのだ。

マーク・ラッシュブルック氏(右)とAUTOCAR UK編集部のジェームズ・アットウッド記者
マーク・ラッシュブルック氏(右)とAUTOCAR UK編集部のジェームズ・アットウッド記者

「フォードはかつて、マーケティング目的でレースに注力することもあれば、技術移転を目的とすることもありました。しかし、今日ではその両方を実践しています。わたし達は学び、マーケティングを行い、フォード・レーシングを真のビジネスとして捉えています」

「単にバハ1000でブロンコ・ラプターを走らせるためにお金を使うのではなく、その経験を活かし、月曜日にオフィスに戻ってエンジニアたちと共に新型の(市販)ラプターをより良いものにしようとしているのです」

(翻訳者注釈:この記事は「後編」へ続きます。)

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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