【現役デザイナーの眼:BMWノイエクラッセ】賛否両論の方向転換 市販化で薄れたコンセプトの軽快感

公開 : 2026.07.23 11:45

考えられるふたつの変更理由

この変更には、ふたつの理由が考えられます。

ひとつは、量産化に伴う設計上の制約。格納式ドアハンドルやドア内部の構造など、実現するための物理的な条件が影響した可能性があります。ただし、同様の立体表現はKIA EV3やEV9でも採用されているため、設計上の制約だけが理由とは考えにくいでしょう。

『ビジョン・ノイエクラッセ・コンセプト』。キャビンとドアが一塊のような構成で、要素が少ないという点でミニマルなデザインです。
『ビジョン・ノイエクラッセ・コンセプト』。キャビンとドアが一塊のような構成で、要素が少ないという点でミニマルなデザインです。    BMW

もうひとつは、デザイン上の判断です。コンセプトカーで不足していた一体感を、市販車ではショルダーを通すことで前後との連続性を高め、BMWらしい安定感や力強さを与えることを優先したのではないかと推測。ただ、これによりデザインモチーフそのものがぼやけてしまったようにも思います。

ドア断面をはじめとするボディサイドの造形は、クルマ全体の立体構成を決定づける極めて重要な要素です。そこを変更するということは、デザイン全体を作り直すことに等しいんですよ。

だからこそ、この部分は本来、コンセプトカーの段階でもう少し煮詰められていてもよかったのではないか、というのが私の率直な印象です。

『BMWらしさ』はどこか

最後に最も気になることをひとつ。それは『BMWらしさ』の表現はどこかということです。

プレミアムブランドがデザインを刷新する際には、過去とのつながりがポイントになると考えます。私がここ20年くらいのBMWを見て感じてきたのは、長いノーズと後輪に荷重が乗っているような、伸びやかでFRらしいデザインでした。

コンセプトカー『ビジョン・ノイエクラッセXコンセプト』(上)とその市販車『iX3』(下)。i3よりはコンセプトカーに忠実なデザインですが、このデザインでBMWは何を訴求したいのかがいまいち伝わらないと感じてしまいます。
コンセプトカー『ビジョン・ノイエクラッセXコンセプト』(上)とその市販車『iX3』(下)。i3よりはコンセプトカーに忠実なデザインですが、このデザインでBMWは何を訴求したいのかがいまいち伝わらないと感じてしまいます。    BMW

しかしノイエクラッセでは、その特徴は薄れています。サイドのプランカーブも勢いを出す構成ではないので、誤解を恐れずに言うと、これまでのBMWが『動的』というならばノイエクラッセは『静的』とも言えます。

EVの主流化に伴い、FRらしさではなく1960年代のシンプルでピュアなデザインを引き継いだというストーリーはわかるものの、いきなり過ぎて唐突に思えたんですね。

ただ、ノイエクラッセはBMWにとって大きな転換点であり、新しいデザイン言語を示した第一歩。今後このデザインがさらに磨き込まれ、シンプルさの中にBMWならではのプロポーションや力強さが表現されることで、本当の意味で新世代BMWデザインへと成熟していくことを期待しています。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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