ロードテスト マクラーレン・セナ ★★★★★★★★★★

公開 : 2018.10.27 11:40  更新 : 2018.12.03 19:18

 

意匠と技術 ▶ 内装 ▶ 走り ▶ 使い勝手 ▶ 乗り味 ▶ 購入と維持 ▶ スペック ▶ 結論

走り ★★★★★★★★★☆

セナのエンジンは、ハイブリット技術が搭載されているわけでも、子供の頃に憧れた自然吸気のV型12気筒というわけでもない。従来のマクラーレンのモデルと、加速感でどのように異なるのか疑問に感じるひとも少なくないだろう。簡潔にいえば、大きな違いはないと感じた。理想をいうのなら、異なっているべきだったと思う。

今回のテストでの0-100km/h加速性能は、メーカー公称値には届かなかった。720Sが2.9秒、P1が2.8秒を記録する中、セナは3.1秒を要したのだ。タイヤは充分に温めたトロフェオRで、様々なドライビングモードを試したが、特に目立った数字の変化はなかった。

0-100km/h加速が3.1秒というのは、現代のハイパフォーマンスモデルとしては、際立つ数字には感じられないが、運転席から感じるセナの加速感は、暴力的としかいいようがない。しかし実際は、兄弟ともいえる720Sと横並びで競争したとして、追い抜くまでには145km/h程まで加速する必要がある計算だ。

0-400mダッシュは、われわれのデータによれば、セナ720Sとは同一の10.4秒。しかし、400m到達時点で、セナの方が8km/hほど高いスピードが出ていることになる。その後、720Sとの差は徐々に大きくなり、300km/hオーバーまで加速し続ける。

マクラーレンP1の方が、速度域に関わらず、加速性能では優れている。ただ、P1は915psを誇るハイパーカーで、マクラーレンの優れたパフォーマンスを印象づける目的で生まれたクルマ。一方でセナは、加速を若干控えめにしつつも、全方位的な柔軟性を持った究極のロードリーガル・レーサーとして、より特化したモデルだといえる。高回転域まで積極的に回りたがり、スロットル操作に対するリニアリティの高さ、セナのV8エンジンの完成度は極めて高い。加えて変速時間も極めて短い。

これまで何度もマクラーレンのモデルの収録をしてきているが、サウンドも今まで以上に優れている。全回転域に渡って相当に賑やかだが、耳栓をしてヘルメットをかぶった状態で聞く限り、ベストといえる圧倒的なエンジンノイズだと思う。

低回転域では躊躇なく振動と共鳴音が伝わってくるから、エンジンはリジッドマウント状態なのは明確。クランクスピードが高くなるにつれ、そのエンジンはクルマの一部となり、旋盤のような轟音から、モーターが高回転でスピンするような響きに変わる。そして5500rpm以上になると魂が宿り、抜群にチューニングされた8気筒の咆哮は、聞き惚れてしまう白眉のサウンドとなる。クルマの目的通り、サーキットを攻め立てて走る限り、セナの音は心地よく感じるだろう。しかし、残りの時間は、ひとによって感じ方は大きく異なると思うけれど。

このクルマに無くてはならないものが、優れたブレーキ。マクラーレンによれば、セナに搭載されるカーボンブレーキを製造するには、720Sに搭載されているブレーキの7倍の時間を要するという。このクルマを超高速域へと加速させる驚愕のパワーを引き出すには、クルマへの信頼が不可欠。コーナーの入口では、ABSで弾かれるフィーリングやハンドリングが小刻みに不安定になるような感覚は一切なく、思い切りブレーキペダルを踏み込む自信を持たせてくれる。

いつものごとくブレーキング性能として、112km/hから停止するまでの距離を計測すると、セナの制動距離はわずか37.4mで、他のスーパーカーよりも10m前後短い。さらに高速域からハードブレーキングを試みると、慣性で前方向にかかる力は、1.5Gを記録した。一般的なスーパーカーでも1.25Gを超えることは珍しいのにも関わらず。

これらを踏まえても、運転のしやすさを兼ね備えた、最高水準のナンバー付きレーシングカーという表現に、偽りはないといえるだろう。

テストコース

サーキットでの走行会にセナを持ち込んだとして、腕利きのドライバーだとしても、クルマの底知れないパフォーマンスを把握するには、数時間は必要になると思う。アマチュアドライバーなら、何度かサーキットを訪れても、帰宅後に自問自答の反省会を繰り返すことになるだろう。しかし、セナの持つエキサイティングさが、クルマのパフォーマンスを引き出したいという欲求を生み出し、自信を徐々に持たせてくれるはず。サーキットでの走りの秀逸さには、疑問を挟む余地はない。

異なるサーキットでテストを行ったが、1時間ほどかなりのペースで走行して、クルマを降りる時間になっても、タイムを削れる場所が次々と出てくるほどだった。広いサーキットなら、極めて高いスピードでのコーナリングを試したことだろう。しかし、いつものMIRA社のダンロップサーキットは、変わらずタイトで狭い。それでも2017年にランボルギーニウラカン・ペルフォマンテが出した1分5.3秒というラップタイムを1.5秒も縮める、ラップレコードを叩き出した。

図上側のサーキットで、T4のセクションでノーズの向きをラインに沿わせるには、一瞬、僅かにスロットルを戻す必要があった。T5セクションで見せたセナのストッピングパワーとスタビリティは、息を呑むほど。

トロフェオRタイヤでのウェットコンディションは、排水性だけでなく、温度管理にも十分注意が必要となる。ESCとトルクベクタリング・システムは、濡れた路面でも充分機能した。

発進加速

マクラーレン・セナ
テストトラック条件:ドライ/気温20℃
0-402m発進加速:10.4秒(到達速度:238.5km/h)
0-1000m発進加速:18.4秒(到達速度:284.6km/h)

マクラーレンP1(2014)
テストトラック条件:ドライ路面/気温18℃
0-402m発進加速:10.2秒(到達速度:237.3km/h)
0-1000m発進加速:18.2秒(到達速度:287.2km/h)

制動距離


マクラーレン・セナ
テスト条件:ドライ/気温20℃
97-0km/h制動時間:2.37秒


マクラーレンP1(2014)
テスト条件:ドライ/気温18℃

 

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