ロードテスト マクラーレン・セナ ★★★★★★★★★★

公開 : 2018.10.27 11:40  更新 : 2018.12.03 19:18

 

はじめに ▶ 意匠と技術 ▶ 内装 ▶ 走り ▶ 乗り味 ▶ 購入と維持 ▶ スペック ▶ 結論

乗り味 ★★★★★★★★★★

他のクルマには持ちえないセナのポテンシャルを引き出すべく、サーキットで限界まで踏み込むことは、恐怖を抱かせるほどのもの。肉体的な体力に加えて、高い集中力を持続させ、積極的に運転することが不可欠。しかし、必要なことはその程度だともいえる。ルマンで優勝できるレベルの、ドライビングスキルや経験は必要ない。その点は特筆に値する。

セナのハンドリングはほとんどの場面で一貫性があり、意図したとおりに動くため、自信が限界だとこれまで考えているより遥か上の領域まで攻め込んでいくことを要求してくる。スロットルをより早い段階で開けさせ、ブレーキを踏むポイントを遅らせ、コーナーをこれまで以上に速く曲がらせてくれる。充分に温まったタイヤと、エアロダイナミクスが生む、計り知れないグリップ力は、まるで魔法のよう。しかし決して自身の意に反することはない。

操作する力加減の感覚を掴む前に、トロフェオRタイヤの温度のウォームアップが完了し、クルマは臨戦態勢を整える。大体のサーキットでは、ピットストップを含めて8〜10周程度、良いラップを重ねればOK。反面、サスペンションとスタビリティコントロールを最も安定志向にセッティングし、冷えたタイヤでセナをプッシュすると、グリップとスタビリティの限界が低いことに驚かされる。すべては地を這うような車高と、加熱されたゴムが生み出すマジックなのだ。

たとえ準備が整った状態でセナを発進させても、クルマの発生させるダウンフォースとの兼ね合いで、ひとつかふたつ、超えなければならないハードルがある。そのハードルは、待っていても来ない。

アクティブエアロとサスペンションの効果で、クルマの重心が僅かに後輪よりに移動する感覚が生まれるのは、120km/h、140km/h、160km/hと、リスクを感じるほどに、スピードを上げ始めてから。それを超えると、高速領域でのハンドリングに、まるで路面に固定されているかのようなスタビリティが加わり、想像もつかないような次元での、クルマへの信頼感に変化する。大胆なステアリング操作も必要となるけれど。

低速域では、そのような安定化させる力は働かない。そのかわり、クルマの挙動は極めて正確性が高く、2速や3速で抜けるようなキツめのコーナーの場合、スロットルの操作で姿勢を調整できる、懐の深いハンドリングを示す。スピードを上げるごとに緻密さも増し、クルマは俊敏に向きを変えるから、ステアリング操作の正確性も強く求められてくる。もちろん、車高が低くグリップも充分で、スプリングレートが高いからこそ。

そして低速の場面でも、セナのセッティングの妙が光る。電動油圧式パワーステアリングが、世界最高水準の接地感覚をステアリングホイールに伝えてくれるから、フロントタイヤの角度やグリップの仕方などの状況が掴みやすいのだ。加えて、ロックトゥロックが2.4回転というクイックなセッティングが、ダイレクトさを高めている。

一般道ではどうかというと、セナは全般的に扱いやすいといえる。スタイリングの割に、信じられないほど運転はしやすく、賢い電子制御システムによって統制されている。エグゾーストノートはうるさいが、コンフォートモードなら、ポルシェ911のGTグレード並みには、快適に走れる。

サーキット走行が前提と聞くと、極めて敏感なハンドリングと、荒々しい乗り心地を想像するかもしれないが、このクルマの場合は心配は無用だと感じた。もう一つ加えるなら、車高をしっかりと下げ、160km/hを超える速度で走行しない限り、このクルマのすべては、正常に機能しないようにすら感じられてしまう。

 

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