【ボンドカー・レプリカに撃たれる】ロータス・エスプリ S1とエスプリ・ターボ 前編

公開 : 2021.10.09 07:05  更新 : 2021.10.11 17:47

タータンチェックの内装も完全再現

内装にも努力が投じられた。ジェームズ・ボンドのエスプリは1976年初期のモデル。シートはグリーンとレッドのタータンチェック・クロスで仕立てられ、オレンジのカーペットでフロアが覆われている。特徴的な配色だ。

デロリアンDMC-12にも関わったニック・フルチャー氏は、その前にエスプリのインテリアもデザインしています。ノーフォークにあるフルチャー・コーチトリマーズ社には、ジャンボジェットのものに似たシートが沢山並んでいたんです」

ロータス・エスプリ・シリーズ1(1978年/英国仕様)「私を愛したスパイ」ボンドカー・レプリカ
ロータス・エスプリ・シリーズ1(1978年/英国仕様)「私を愛したスパイ」ボンドカー・レプリカ

「ですが、ロータスはすぐに仕立て方法を変更しました。製造に時間がかかり、摩耗性も良くなかったためでしょう」。ファビアンが話す。

フルチャーの息子で、同じく内装トリミングを手掛けていたスティーブへファビアンは連絡。残っていたシート生地を見つけてもらい、ボンドカーのレプリカとしてインテリアを仕上げてもらった。

ヘッドレストは、オリジナルではタータンチェックだが、劇中に登場するエスプリはグリーン。ロジャー・ムーアの顔色と対比が悪く、撮影チームが変更したのだが、それもしっかり再現されている。

ロータス・エスプリは、徐々に本来の素晴らしいスポーツカーへ戻されていった。徹底的なレストアを経ていることを活かし、細部までこだわり抜きながら。

1978年式シリーズ2として追加されたサイドのエアインテークは、劇中のシリーズ1に合致するように削除。ダッシュボードやメーターパネルには、オリジナルと同じコーティングが施された。

7000rpmめがけて意欲的に回る907

「ロータスはスペースシャトルと同じ発想で、外光の反射を抑えるためネクステルと呼ばれる素材をダッシュボードに吹き付けています。ガレージに送風ファン付きのスプレーブースを作りました。温度と湿度も、完全な状態を保てるように」

「一度目はうまくいかず、急いで技術サービスへ電話。もう一度スプレーしていいか尋ねると、急いで吹くべきだと。乾燥すると繊維が固まってしまうんです。すぐに2度目を吹いたので、1つの層に融合しました」。ファビアンが説明する。

ロータス・エスプリ・シリーズ1(1978年/英国仕様)「私を愛したスパイ」ボンドカー・レプリカ
ロータス・エスプリ・シリーズ1(1978年/英国仕様)「私を愛したスパイ」ボンドカー・レプリカ

そして遂に、見事なロータス・エスプリのボンドカー・レプリカが誕生した。その完成度には、驚かずにはいられない。

大きなステアリングホイールの後ろ、美しく仕立てられたドライバーズシートに身体を収め、ひと息つくと特別な細工が見えてくる。天井には時計も兼ねた潜望鏡が付いている。シフトノブの上部には、ミサイルの発射ボタンが埋め込まれている。

ファビアンの夢が詰まったエスプリ。郊外の開けた道でアクセルペダルを踏み込むと、ボンドカーのレプリカだということを忘れる。変速は滑らかに決まり、活き活きとしたステアリングにうれしくなる。

着座位置は極めて低い。ゴーカートのように、路面が近い。

縦向きにミドシップされるのは、タイプ907と呼ばれる4気筒。1973ccで162psを発揮する、宝石のようなユニットだ。少し大げさなくらい、7000rpmめがけて意欲的に回りたがる。冷却用3連ファンという、賢明な変更も加えられている。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    グレッグ・マクレマン

    Greg Macleman

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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