アウディRS eトロンGT/アウディeトロンGTクワトロ比較試乗 選ぶなら?

公開 : 2021.11.11 18:05  更新 : 2021.11.11 20:35

「エンジンつきスポーツカー」に酷似

RS eトロンGTが秘めた動力性能の高さはまさに驚異的といっていい。

最高出力と最大トルクは598psと84.6kg-mを発生し、0-100km/h加速は実に3.3秒で駆け抜ける。

アウディRS eトロンGTは598psと84.6kg-mを発生する。
アウディRS eトロンGTは598psと84.6kg-mを発生する。

超高速走行が苦手なモデルが少なくないEVにあって、250km/hの最高速度(スピードリミッター作動)を実現しているのも異例なことだ。

ただし、これだけの高性能を、よくあるハイパフォーマンスEVのように「これ見よがし」に発揮しないところが好ましい。

ご存じのとおり、EVに搭載される電気モーターは0rpm時に最大トルクを発揮することが多い。

言い換えれば、発進した直後の加速Gが最大で、その後はこれが徐々におだやかになっていくのがEVの特徴で、前述したタイプのハイパフォーマンスEVでは、電気モーターのこの特性を最大限に生かし、動き出した直後に首が後にのけぞるような加速感を発揮するようなクルマが少なくない。

しかし、RS eトロンGTは素早くすっと発進してから、車速が高まるにつれて加速感も次第に強まっていくキャラクターに仕上げられている。

つまり、われわれが長年親しんできた「エンジンつきスポーツカー」に酷似しているのだ。

おかげで、巷に多くあるハイパフォーマンスEVとは別次元のドライバビリティを実現していて、実に扱い易い。

ドライバーが意のままにパワーをコントロールしている感覚が強いといってもいいだろう。

同じ傾向はハンドリングにもあって、なにも考えずにただステアリングを切るだけで驚異的な横Gを発生させるハイパフォーマンスEVとは趣が大きく異なり、しっかりと前荷重を作ってからターンインさせたくなる、自然な操縦性に仕上げられているのだ。

結果的にタイヤの接地感が掴みやすく、その分だけドライバーは自信を持ってコーナーを攻めることができるはずだ。

スタンダードなeトロンGTのほうがお勧め

そうした優れた特徴を備えたRS eトロンGTは、乗り心地や操作感覚という意味でも従来のアウディRSモデルと共通のテイストに仕上げられている。

いや、正確にいえばひと世代前のRSモデルといったほうがいいだろう。

アウディeトロンGTクワトロは、476psと65.3kg-mを発揮する。
アウディeトロンGTクワトロは、476psと65.3kg-mを発揮する。

つまり、いかにも踏面が硬そうなタイヤからは路面のザラツキが常に伝わってくるし、路面に大きな段差があれば、これもそれなりのショックとなって乗員に伝えられる。

ステアリングやペダル類の操作力をやや大きめに設定してあるところもRSモデルらしい。

実は、最新世代のRSモデルがこういった点が大幅に洗練されているのだけれど、RS eトロンGTはこの点だけがなぜかひと世代前の水準に近い。

端的にいえば十分に洗練されていないのだ。

RS eトロンGTが備えた乗り心地面や操作性の「骨太さ」は、スポーツモデルを積極的に選択する多くのドライバーに受け入れられるレベルのものだが、冒頭で述べたような特別な世界観をより明確に味わいたいのなら、RSでないスタンダードなeトロンGTクワトロのほうがお勧めだ。

試乗車が装着していたタイヤサイズがRS eトロンGTの21インチに対して20インチとされていたことも効いているのだろうが、乗り心地はとにかくマイルドで快適。

だからといってステアリングレスポンスや絶対的なコーナリング性能ではRS eトロンGTとまったく遜色がない。

476psの最高出力と4.1秒の0-100km/h加速タイムにしても不満を感じないどころか、多くのドライバーが「ありあまるパフォーマンス」と感じるはずだ。

上品なウッドとシックなファブリック(レザーフリーパッケージに設定された素材)に包まれたインテリアも魅力的だし、オプションでカーボンルーフがおごられたRS eトロンGTと異なり、標準のパノラマガラスサンルーフを装備するeトロンGTは視覚的な開放感が強く、後席の実質的なヘッドルームにも余裕があった。

したがって、わたしがこの2台のうちのどちらかを選ぶなら、おそらくeトロンGTをピックアップするだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。

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