ハンバー・セプターとライレー 4/72 1960年代の英国乗用車 6台を比較 後編

公開 : 2022.01.15 07:07

古い英国パブ的なライレー 4/72

ヒルマン・スーパー・ミンクスの3兄弟や、フォードヴォグゾールといった主張の強い現代的なモデルに対し、少し古い英国パブ的な雰囲気を残していたのが、ライレー 4/72。それらとは別の英国人層をターゲットとしたモデルだった。

4/72のドライバーが好んで聞いていたBBCラジオも、地域ニュースやラジオドラマ、国際情勢など、真面目なものだったはず。とはいえ、1964年式のライレーは間違いなくチャーミングに見える。

ライレー 4/72(1961〜1969年/英国仕様)
ライレー 4/72(1961〜1969年/英国仕様)

ポーセリン・グレーとアーモンド・グリーンというツートーンのボディに、クロームメッキがふんだんに用いられ、アメリカンなスタイリングが引き立てられている。オーナーはアラン・マーシャル氏だ。

BMCグループに属していたライレーが、ピニンファリーナ(ファリーナ)・デザインのMGマグネットのバッジエンジニアリングとして1959年に発売したモデルが、4/68。1961年にフェイスリフトを受け、車名が4/72へ改められた。

サスペンションにアンチロールバーが与えられ、シャシーはホイールベースを延長。4気筒エンジンの排気量は1622ccへ増やされている。

遠くへ速く移動したい人のためのクルマ

マーシャルがこのライレーとともに暮らすようになったのは、1982年から。「2代目のファリーナです。これまでに何度も、SUキャブレターをオーバーホールしています。走りが見違えますからね」

操縦性を改善するため、古いクロスプライ・タイヤは現代的なラジアルに交換したという。「それでも、コーナーを攻め込めるわけではありません。当時のBMCが、4/72にオーバードライブや1.8Lエンジンを与えなかったのは残念ですね」

ライレー 4/72(1961〜1969年/英国仕様)
ライレー 4/72(1961〜1969年/英国仕様)

ライレー 4/72は1969年に製造を終えてしまうが、悲しいことにブランド自体もその年に消滅してしまった。しかしマーシャルのクルマは、今はなきブランドの魅力を教えてくれる。現代的なパッケージングと、伝統的なルックスで。

4/72は、遠くへ速く移動したい人のためのクルマだ。当時のBMCが主張したように。広告を振り返ると、自ら運転をしたい上役をターゲットにしていた。確かにブランド力に拘る人を除いて、悪い選択ではなかったと思う。

筆者が6台から選ぶならハンバー・セプター

3編を通じてご紹介した英国製コンパクトサルーンは、いずれも特に自動車技術を飛躍的に高めたわけではない。従来的な信頼のおける技術が、不足ない洗練度で組み合わされているが、それそこのクルマに求められた内容だった。

筆者がこの6台のサルーンから1台を選ぶなら、ハンバー・セプター Mk Iとなるだろう。走りに活気があるという理由で。積極的に運転したいドライバーだけでなく、ロック歌手が乗り回すようなスタイルにも向いていると思う。

そして、ドアを開いても一興。メーターがずらりと並ぶ造形豊かなダッシュボードに、強く惹かれてしまうのだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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