ハンバー・セプターとライレー 4/72 1960年代の英国乗用車 6台を比較 後編

公開 : 2022.01.15 07:07

1960年代、英国で普及の進む高速道路を快走した6台のサルーン。英国編集部が、かつての普通の乗用車をご紹介します。

3兄弟の最上位 ハンバー・セプター

英国のクライスラーが、ハンバーというブランド名を掲げ販売していた、4ドアサルーンのセプター。人気司会者のような笑顔が自慢の営業マンにとっては、理想的なカンパニーカーの1台だった。

第二次大戦後初のハンバー製コンパクトモデルとして、1963年に登場したセプターMk I。中編でご紹介したスーパー・ミンクスとシンガー・ヴォーグという3兄弟の、最上位に当たる。

ハンバー・セプター Mk I(1963〜1965年/英国仕様)
ハンバー・セプター Mk I(1963〜1965年/英国仕様)

この謙虚なスポーツサルーンは、実際はルーツ・グループのヒルマン・スーパー・ミンクスへ手を加えただけの、バッジ・エンジニアリング・モデル。位置調整が可能なステアリングコラムに4灯ヘッドライト、オーバードライブなど、上級装備が自慢といえた。

眉毛のようなラインの入ったコミカルなフロントマスクや、フィンの付いたテールなど、見た目は個性的。クロームメッキの華やかな雰囲気が、魅力度を高めていた。

低めのルーフラインにパワフルな4気筒エンジン、サンビーム・レイピア風のフロントグリルが与えられていた点も特長。当初、セプターはサンビームのモデルとして売られる計画があったようだ。

発売から2年後、セプターはMk IIへ進化。フロントマスクがお化粧直しされ、5ベアリングの1725ccエンジンを獲得している。

手頃なアメリカン・スタイルのモデル

ニコラス・ハリーズ氏がオーナーの1965年式セプターは、Mk Iの最終モデル。ベルベット・グリーンと呼ばれる深い緑が美しい。

「祖父が新車で買ったものです。自分に物心がついた頃には、このクルマのことも知っていました。ハンバーで運転を学び、祖父が85歳でこの世を去った時に、わたしがオーナーとして引き継いだんです」

ハンバー・セプター Mk I(1963〜1965年/英国仕様)
ハンバー・セプター Mk I(1963〜1965年/英国仕様)

その経緯を説明するハリーズは、ハンバーの路上でのマナーが素晴らしいことに感心している。「この子はフィット感のある手袋のように、わたしの手に馴染むんです。トランスミッションはスムーズに動きますし、オーバードライブは高速道路に最適」

「一度外されたオリジナル部品も、再び装備させています。30年以上ウェーバーのキャブレターが載っていましたが、ソレックスにしました。エアフィルターも元通り。パフォーマンスに悪影響を与えず、静かで洗練された走りになりましたよ」

セプターが登場する頃、ハンバーというブランドは確実に縮小傾向にあった。1967年にMk IIからアローシリーズと呼ばれたMk IIIへ交代するが、それを最後にハンバー・ブランドは消滅。クライスラーも北米へ引き上げてしまう。

とはいえ、ハンバー・セプターは今でもエネルギッシュで魅力的なクルマだ。高速道路を走る車内は、1960年代の上質そのもの。当時のミドルクラスから、手頃なアメリカン・スタイルのサルーンとして愛されたことも理解できる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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