忘れがたきレイランドの傑作 ローバーSD1シリーズ 3500からV8-Sまで 後編

公開 : 2022.04.09 07:06

1040台のみが作られた最高のSD1

TSL 982のナンバーを付けたローバーV8-Sの所有者は、ティム・スペンサー氏。ボルグワーナー社製のATがチョイスされた例が多いなかで、5速MTが組まれた珍しい個体でもある。

インテリアには特別感が漂い、ラグジュアリーな雰囲気は4台のなかで1番。「ローバーは基本設計の高さに並ぶ、仕上げ水準も獲得しました」。と当時のモーター誌は評価している。

5ドアのファストバックボディは、やや保守的な上級市場では不利といえたが、そもそもブリティッシュ・レイランド社はV8-Sの生産数を限定していた。1980年9月に、3500ヴァンデンプラへバトンタッチするまで、1040台しか作られていない。

スペンサーのクルマは、その初期の生産モデル。英国のローバーSD1オーナーズクラブによると、残存する最も古いV8-Sだという。当初は、英国西部のマン島にあるディーラーで、デモ車両を務めていたようだ。

彼が購入したのは1997年。英国中部のラフバラーという町で発見した時は、すっかり疲れ切った状態だった。入手後にボディを修理し、欠損していたボディトリムを直し、輝かしい状態を取り戻している。

新車時のうたい文句のように、最高とそれ以外との違いも、しっかり確かめられる。スペンサーは、V8-Sがロング・クルージングに適していると話すが、5速MTもその走りにピッタリだ。

もはやブリティッシュ・レイランド社は存在しない。だが、これがブランド史の重要な1台に該当することは疑いようがない。

現在に再評価を受けるSD1の個性と存在感

1982年にローバーのSD1シリーズはフェイスリフトを受け、シリーズ2へアップデート。その4年後、1986年にはシリーズ2の生産も終了。ホンダ・レジェンドがベースとなる、ローバー800へ道を譲った。

今回の4台は、約45年前のショールームを賑わせた、ローバーを象徴するモデルたちだ。特異な存在として受け止められてきた過去もあるが、クラシックとして、新たな価値が生まれている。

左からブルーのローバー2300、ゴールドのローバー3500、ゴールドのローバーV8-S、グリーンのローバー2600
左からブルーのローバー2300、ゴールドのローバー3500、ゴールドのローバーV8-S、グリーンのローバー2600

野心的な意気込みで開発されたSD1シリーズには、欠点があったことも確かではある。しかし、退屈なモデルではなかったことは間違いない。

均質化が進むクルマにあって、唯一の個性と存在感を湛えている。1970年代における次の時代のモデルとして、再評価を受ける理由にもうなずけるのだった。

協力:英国自動車博物館、ローバーSD1クラブ

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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