可憐なボディに直6エンジンのサソリ アバルト2200 スパイダー 不遇な上級モデル 後編

公開 : 2022.06.05 07:06

アバルトらしく排気ノイズは聴き応え充分

短いドアを開き運転席へ腰を下ろすと、巨大なナルディ社製のウッドリム・ステアリングホイールが胸元に迫る。細かいシボの入った金属パネルにあしらわれた、フィアット由来の矢印にくり抜かれたウインカー・ライトがオシャレだ。

スイッチ類はベークライト樹脂。ラジオは、派手にクロームメッキで仕上げてある。外観の印象とは少し異なる。

アバルト2200 スパイダー(1959〜1961年/英国仕様)
アバルト2200 スパイダー(1959〜1961年/英国仕様)

イェーガー社製のスピードメーターは時速170マイル、約273km/hまで振られているが、これは夢に描いた数字でしかない。レブカウンターは7000rpmまで。補助メーターが、隙間を埋める。

シートは本来合皮で仕立てられていたが、今はレザーに張り直されている。フロアから伸びる3枚のペダルと、丸いノブの付いたシフトレバーの位置は理想的だ。

エグゾーストのチューニングパーツで名を馳せたアバルトだけあって、2200 スパイダーの排気ノイズも聴き応え充分。フィアット由来のエンジンは、アクセルペダルを踏み込むと吸気ノイズと重なり勇ましい唸りを放つ。

どこかゆったりしているという個性が、典型的なアバルトとは対照的。車重は1090kg程度だから、137psの最高出力でも不満はない。最大トルクは17.9kg-m/3800rpmと余裕があり、ドラマチックさを高めることなく勢いよく加速する。

当時のアバルトは、0-97km/h加速が9.0秒、最高速度は197km/hだと主張した。かなり好条件での結果だと思われるが、活発に感じられることは間違いない。

サソリのマークが良く似合うクラシック

シフトフィールは想像以上。ゲートはわかりやすく、ストロークは短く、どのレシオも簡単に選べる。1959年生まれという車齢を考えると、1番の驚きかもしれない。アッレマーノ社が仕上げたスパイダー・ボディも強固。多少のことでは震える様子もなかった。

一方で、ボール・ナット式のステアリングラックはこの時代的。それでも、明確なキックバックや無感覚な領域は見当たらない。

アバルト2200 スパイダー(1959〜1961年/英国仕様)
アバルト2200 スパイダー(1959〜1961年/英国仕様)

急なヘアピンが続く、アルプスのワインディングを急ぐクルマではない。流れのスムーズな郊外の道を、ツーリングするのが理想的。レーシングカー直系的な鋭さがないぶん、反応は予想しやすく、リラックスして運転できる。

ツインコイルで支えるリア・サスペンションが、リジットアクスルの振動を巧みに受け流す。コーナリング中に不意の隆起を通過しても、不安定になる素振りもない。ブレーキも良く効く。ペダルのストロークは長く、力も必要だけれど。

唯一で独特の色気を持った、非常に特別なスパイダーだ。マニアックなフィアットでもないし、チューニングされたオープン・スポーツでもない。

美しいボディだけではない、愛すべきイタリアン・クラシックだと思う。新車当時から注目を集めることはなかったが、ブランドの歴史に欠くことができない1台でもある。

アバルト2200 スパイダーは、成り立ち以上に優れた実力を備えていた。そして、サソリのマークが良く似合う。改めて、多くのドライバーを惹きつけられなかったという過去が、筆者は残念でならない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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