レーシング・ジュニア・マセラティ オスカMT4 セブリング12時間での格下勝利 後編

公開 : 2022.06.19 07:06  更新 : 2022.08.08 07:08

一般道で強く輝くオスカの個性

「アレクサンダーさんは、これが人生のモチベーションだと話していました。雨風をしのげるルーフはなく、エグゾースト・ノイズも轟音。でも、見事に完走できたんですよ」

オスカをすっかり気に入ったアレクサンダーは、これまでミッレ・ミリアに7度も出場している。ル・マン24時間レースではパレードランにも参加し、タルガ・フローリオのためにシチリア島へも渡った。

オスカMT4(1954年/欧州仕様)
オスカMT4(1954年/欧州仕様)

2013年、彼はやむなくMT4を売却する。だが、2014年に再びドライバーとして乗り、ミッレ・ミリアを完走したという。

晴れて乾燥したイタリア南部とは異なり、グレートブリテン島の南西、コッツウォルズの春は曇りがち。それでも幅の狭い一般道で、オスカの個性が強く輝く。

小さなコクピットに収まる、レザー張りのバケットシートは筆者の体型にピッタリ。しっかり身体を支えてくれる。だが身長の高いドライバーは、終始気流に揉まれることになる。

新車当時は、高さのあるル・マン用フロントガラスが装備されていた。それでも、1954年にユノディエール・ストレートを全開で駆け抜けるには、人並み外れた気力がなければ難しかっただろう。

ダッシュボードの中央では、1万rpmまで振られたイエーガー社製のレブカウンターが風格を放つ。油圧と水温計がステアリングホイールの奥に見える。

華奢なイグニッション・キーを押し込み、スターターレバーを操作すると、ツインカム4気筒エンジンが威勢よく目覚めた。1速と2速との間にもシンクロメッシュがなく、低速域では変速が難しい。

ジュニア・マセラティの完成度と能力の高さ

シフトアップしていくと、カシっとした感触が心地いい。レバーの動きも滑らかだ。変速に慣れると、1092ccの4気筒が驚くほど太いトルクを発揮することに気付く。しかも、とても回りたがる。

ボール・ナット式のステアリングも、素晴らしい喜び。軽く正確に反応し、感触も感動的に濃い。開けた道でMT4の能力に迫ると、秀でたシャシーバランスとタイトな特性に気持ちが奪われる。

オスカMT4(1954年/欧州仕様)
オスカMT4(1954年/欧州仕様)

コーナーへ速めのスピードで飛び込むと、テールが軽く感じられる。だが、燃料タンクが満タンで、スペアタイヤを積んでいれば、重量配分は改善するはず。幅の狭い15インチ・ミシュランのグリップ力も、有効に活かせる。

このバルケッタで、イタリアの一般道を14時間もまくしたてるのは簡単ではなさそうだが、4スポーク・ステアリングホイールを握っての運転は楽しい。数km走れば、ジュニア・マセラティの完成度の高さを理解できる。

かのスターリング・モス氏が、レースだけでなくプライベートでもオスカを愛したことにも納得できる。熱心に走りたいと、クルマが訴えてくるようだ。

正確な操作性と意欲的に高まるパワー、バランスの良いシャシーが調和する、スイートスポットを探りたいとドライバーの気持ちを刺激する。1950年代のサーキットで、ポルシェスパイダーと競い合う体験は、中毒性のあるものだったに違いない。

事実、シャシー番号1143のMT4も、歴代のオーナーによってレースを戦ってきた。それは、当然のことだったようだ。筆者が幼い頃から好きだった理由も。

協力:クラシック・モーター・ハブ社、マクグラス・マセラティ社

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ウィル・ウイリアムズ

    Will Williams

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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