ACカーズのデモ・レーサー AC 16/80 トライアル・イベント連勝マシンをレストア 前編

公開 : 2022.10.09 07:05  更新 : 2022.10.09 07:48

ブリティッシュ・グリーンの優雅なAC 16/80。戦前のファクトリー・レーサーだったスポーツモデルを、英国編集部がご紹介します。

目利きドライバーの支持を集めたACカーズ

90年ほど前の英国は自由だった。購入したてのスポーツカーをショールームで受け取り、そのままレースへ向かったドライバーも少なくなかった。真新しいフレイザー・ナッシュやジャガーの前身、SSカーズが、慣らしも終わらぬまま自走で会場へ走った。

当時存在していたサーキットは、ブルックランズとシェルズリー・ウォルシュ程度。自動車愛好家が専ら楽しんでいたのは、林道などの特設コースを走るトライアル・イベントだった。グレートブリテン島の各地で夜通し開催されるお祭りに、多くの人が興奮した。

AC 16/80 コンペティション・スポーツ(1935年/英国仕様)
AC 16/80 コンペティション・スポーツ(1935年/英国仕様)

トライアル・マシンの典型といえたのが、大容量のスラブ・ガソリンタンクと2本のスペアタイヤをボディ後方に搭載するスタイル。今回ご紹介するACカーズのショートシャシー・コンペティション・スポーツ、16/80はそのなかでも美しい1台に数えられる。

スタイリッシュで速く、お手頃だったコベントリーのSSカーズの陰になっていたことは事実。だがロンドンの西、テムズ・ディットンに拠点を置いたACカーズのマシンも、控えめなマシンを求める目利きのドライバーから支持を集めた。

搭載するエンジンは、信頼性に優れる2.0L直列6気筒。そこに外部メーカーの高品質な部品が組み合わされていた。シャシーは、SSカーズと同じルベリー・オーウェン社製だったという事実が面白い。

1935年から1939年に、職人の手仕事で生み出された16/80は42台。その内の28台が、スラブ・ガソリンタンクを搭載していたという。

ラリーやトライアル・イベントで連勝

今回の1台は、2番目に製造されている。シャシー番号はL358で、近年丁寧なレストアを受けたばかり。ブリティッシュ・レーシンググリーンのボディに合わせたグリーンのレザーで仕立てられ、ACカーズのデモ車両として活躍した過去を持つ。

クルマが完成すると顧客の1人、WE.ケンドリック氏へ貸し出され、1935年12月27日から28日に開かれたエクセター・トライアルへ出場。当時は難関として知られていたコースを走破し、初戦で見事優勝を掴んだ。

AC 16/80 コンペティション・スポーツ(1935年/英国仕様)
AC 16/80 コンペティション・スポーツ(1935年/英国仕様)

続く1936年3月には、マーガレット・アラン氏のドライブでRAC(ロイヤル・オートモビル・クラブ)ラリーに参戦。クラス優勝を遂げている。

当時のAUTOCARも、このDPD 40のナンバーを付けたAC 16/80で試乗テストを実施。動力性能などを詳しく調べている。ブルックランズ・サーキットでは、0-400m加速で135.3km/hを記録した。

1930年にACカーズを買収していたハーロック兄弟は、トライアルやラリー・イベントを理想的なマーケティング手法として捉えていた。そのため、最も過酷として知られていたランズエンド・トライアルにも参戦。勝利でその強さを証明している。

1937年3月にもRACラリーで活躍した後、16/80はAUTOCARの売買広告枠で売りに出された。走行距離は1万2552kmで、価格は330ポンド。メーカーの保証も付いていた。ちなみに新車価格は445ポンドだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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