ACカーズのデモ・レーサー AC 16/80 トライアル・イベント連勝マシンをレストア 前編

公開 : 2022.10.09 07:05  更新 : 2022.10.09 07:48

ベスト・サウンド賞に選ばれた排気音

その広告を見たのかどうか、勝利を重ねた16/80はトライアル・イベントにハマっていたセシル・デイ氏が購入。5月に開かれたランズエンド・トライアルや、約1530kmを走るコロネーション・スコティッシュ・ラリーを戦った。

彼は助手席に妻を乗せ、1939年のランズエンド・トライアルまで積極的に多くのレースへ出場。激しい走りに16/80は耐え抜き、第二次大戦の被害も免れた。

セシル・デイ氏がオーナーだった頃のAC 16/80 コンペティション・スポーツ
セシル・デイ氏がオーナーだった頃のAC 16/80 コンペティション・スポーツ

グリーンだったレザーはブラックに塗られていたものの、シャシーもボディもオリジナルが維持されていた。トランペット付きのキャブレターに合わせて、ボンネットは加工されたようだ。

しばらくの間を置いて、1985年にデビッド・ヘスクロフ氏が16/80を購入。ヴィンテージ・スポーツカークラブ(VSCC)主催のトライアル・イベントへ向けて整備を加え、レザーは磨き込まれオリジナルのグリーンが顕になった。

このイベントでも16/80は優勝。壮大な排気音は、ベスト・サウンド賞にも選ばれた。幾度もタフなコースへ挑んだ彼は、1995年に引退を決意。友人のナイジェル・フィリップス氏へ跡を継いだ。

フィリップスは英国の航空機メーカーを経て、クルマの特装を手掛けるロッド・ジョリー・コーチビルディング社でキャリアを積んだ職人。「8年間、素晴らしい仕事に携われました」。とこれまでを振り返る。

「MGミジェットとMGBを所有してきましたが、コーチビルダーでの仕事が戦前のクルマへの関心を呼び起こしたんです。デビッドさんは仕事仲間で、ACカーズに対する情熱のきっかけにもなりました」

再燃したクラシックカーへの情熱

「PDP 40の16/80は、ショートシャシーとして最初に作られたモデルで、戦前のトライアルやラリー・イベントで大活躍しています。デビッドさんは購入後にVSCCのレイクランド・トライアルへ参加し、一緒に素晴らしい旅を体験させてもらいました」

「これが見事な歴史を持っていることも知っていました。いつか自分もACカーズを所有したいと、考えるようになったんですよ」

AC 16/80 コンペティション・スポーツ(1935年/英国仕様)
AC 16/80 コンペティション・スポーツ(1935年/英国仕様)

フィリップスは自らのビジネスを立ち上げ、家族との時間も優先するため、2014年まではクラシックカーへの情熱を沈めてきた。それらが落ち着くと、再び過去の思いに火がついたらしい。「その頃には、ACカーズを購入できる余裕も生まれていました」

「候補は、ある程度の実用性も兼ね備える英国車。フレイザー・ナッシュやラゴンダ、アルヴィスなど、多くのブランドを考えました。デビッドさんが、自身の16/80を提案するまで」

「彼のACカーズは度重なるトライアル・イベントを経て、ガレージに眠っていました。基本的にオリジナル状態でしたが、エンジンブローしていて新しいエンジンブロックが必要な状態。良い提案だとは思いましたが、冷静に判断する必要はありましたね」

デビッドと取り引きが成立すると、フィリップスはトレーラーに積んで16/80を持ち帰った。しかし、レストアの方向性には数週間悩んだと回想する。「信頼性を高めつつ、ショーカーのようには仕上げたくなかったんです」

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ミック・ウォルシュ

    Mick Walsh

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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