フォルクスワーゲン・ザ・ビートル・デザイン・レザーパッケージ

公開 : 2014.08.14 10:51  更新 : 2017.05.22 14:17

ビートル捕獲

これまで担当してきた長期レポート車には1台もドイツ車がなかった。悪意を持っての選別ではなく、ドイツ車で何をレポートすればいいのか、あるいはできるのか、イメージが浮かばなかったからだ。機械として先進的でその品質や精度も高く、組み付けもしっかりとしている。消耗品のメンテナンスフリー度では日本車におよばないかもしれないが、そこさえ手をかければ耐久性に不足はないのがドイツ車で、だからこそ長く乗って伝えるべき何かを思い描けずにいたのだ。けれどザ・ビートルには、少しばかり思うところがあった。その発端は先代にさかのぼる。

はっきり言ってしまうと、先代ではそこかしこに見つかる残念感を、好意が上回れなかった。まず、ベースとなったゴルフⅣとほとんど寸法は変わらないのに、後席と荷室がずいぶん狭くなっている。デザインのためだが、そもそもオリジナルのビートルというかタイプ1は、空間効率を最大にする意図を持って選ばれたレイアウトで、そのうえで鉄材の量や重量を最小限にすべく、あのような丸みを帯びたスタイルが選択されたはずだ。なのにニュービートルは、デザインのために空間を犠牲にした。そして、フェンダーを張り出させようとキャビンを絞り込ん結果、とても車両感覚がつかみづらくなっていた。寝かせられたピラーが全幅よりずいぶん内側に立ち、それを避けて座らせるために座席は中央寄りに置かれ、活用できない空間を埋める大ぶりなダッシュボードが目の前に鎮座する室内の造りが、ボディの輪郭を想像しにくくさせていた。これについては慣れの問題で、長く乗るオーナーならば気にならないと言われるかも知れないが、そもそも効率的空間設計であれば出てこない話だと思う。

そういったところに残念感を覚えた一方で、けれど所有する対象としては魅力を、ニュービートルには感じてもいた。世界の標準車たるゴルフを基盤とする機械的構成に不満は(あまり)なく、価格的にもゴルフ比で割高に感じない。それに、これだけ否定しておきながらなんだが、なんだかんだ言いつつもデザインがキュートだ。

そんなニュービートルがザ・ビートルに生まれ変わり、不満要素がひととおり改善されているように思えた。デザイン的インパクトは先代のほうが強かったが、タイプ1に回帰したというスタイルのおかげで室内空間はずいぶん広がり、ボディサイズを想像しやすい視界にもなっている。しかも、メカニズムは一気に2世代分も進み、このセグメントで世界最高水準とも言えるトランスミッションとダウンサイジングエンジンが搭載されている。いずれもゴルフのトレンドラインを試乗したときに好印象を抱いたユニットだ。

好意を上回っていたネガ要素があらかた払拭されたらしいとなれば、長く乗って確かめてみたい気持ちも高まる。たとえば、前述のドライブトレインはゴルフと同じく満足できるものなのか。あるいは4リンクからトーションビームへと簡素化されたリヤサスはどうなのか。はたまた、タイプ1はラリーカーとしても実績があったし、ニュービートルにはRSiというホットモデルもあったが、そういう系譜にふさわしい運転体験を、日常のなかで与えてくれるのだろうか。それらを実際に確かめるべく、ザ・ビートルを捕獲した次第だ。

乗り込んで感じたのはドライビングポジションの落ち着きのよさだ。シートとステアリングコラムの位置関係がゴルフより接近しているのか、それともコラムに対するメーターの位置がゴルフより低いためなのか、リラックスしてステアリングを握る姿勢を取れる。おかげで最初に決めたポジションのまま、長時間、微調整なしで走れた。また、ゴルフだと深いバスタブに身を潜めている感覚があるけれど、ザ・ビートルはそれより開放的だ。キャラクターにとても合っていると思う。

まだ400km弱の走行ながら、それでも気づいた点はいくつもある。けれど、せっかくの長期報告だから、急いて細切れに盛り込むのはやめにしよう。なので、まずは運転席環境の所感のみ。ひとまず、第一印象はとてもいい。

(AUTOCAR No.112 2012年7月26日発売号掲載)

夏のカブトムシ

ぐんと総走行距離が伸びた……ように見えるのは、某イベントに貸し出して1600kmほど稼いでもらったからで、実際に僕が走ったのは表のとおり、700kmちょっとでしかない。それでも総走行距離で5000kmを超え、さすがにあちこちに“馴らし済み”な感触が出てきて、乗っていてやっと本番を迎えた感じがする。

そんなわけで10日間ほどビートル(面倒なので以下“ザ・”は省略します)が手元になく、そのあいだ代車として、同じ1.2ℓTSIのポロを使わせてもらった。車重が車検証上180kgも軽いだけあって、ビートルで乗るよりも出足がいい。そして、やはり軽いからなのだろう、常用回転域がやたらに低い。ゆったり乗っていると1300rpmほどでシフトアップし、1000rpm前後を推移しているときもある。ビートルだって+300rpmくらいだから決して高くはない、というよりかなり低い。VWの小排気量ターボ+DSGに乗っているとそういう部分の感覚がズレてきて、もう戻れない身体になってしまいそうだ。実際、なっている人もいるのだろう。その意味では、ほかでは得られないユーザーエクスペリエンスをVWは提供できているわけで、トヨタ、GMに続く第3位の世界シェア獲得の、小排気量ターボ+DSGは大きな原動力になっているに違いない。

その割にはアナタ、この燃費は……と思われた方、ご指摘ありがとうございます。これまでの走行のうち、おおむね半分の距離は混雑していない高速道路でしかもほぼ抜かれずに走って、4割は都心を中心とした低速路(もちろん渋滞込み)、残りの1割が渋滞もしくは渋滞寸前の高速道路といった配分だ。それでこの燃費は、個人的には納得している。何しろエコランなど頭の片隅にも置いていないし、同じような走り方で使用していたこれまでの長期テスト車は、軒並み7km/ℓ前後なのだ。それに比べれば50%ほども向上しているのだから、不満などない。おそらく、どんな人がどんな乗り方をしても、意図的に燃費を落とそうとでもしていない限り、僕以下の数字はおいそれとは出せないはずだ。

ポロに乗っていてもうひとつ思ったのは、ビートルの価格だ。理由はいろいろあるのだろうけれど、ひとまずは安い。この個体はレザパッケージなので車両本体価格は303万円だが、レザー抜きなら250万円になる。一方、代車にお借りしていたポロはコンフォートラインで218万円、アルミホイール付きのハイラインなら242万円だ。そして参考までに、同じく1.2ℓTSIのゴルフのトレンドラインは264万円ただし15インチタイヤである。どう考えてもビートルはお勉強価格だ。

ざっと見回すと、リヤサスがゴルフの4リンクではなくポロ級のトレーリングアームだったり、フロアからの振動がどうもゴルフより大きめだったりする。それらについては今後、走りのレポートとしてお伝えするとして、今の季節だからこそ気になったのは、エアコンだ。フルオートなのはとても嬉しいが、どうも風量が少ないようだ。それを風速でカバーしているらしく、音が大きい。ゴルフはもっと静かだった覚えがあるので、ここはもうひと頑張り、お願いしたい。

(AUTOCAR No.113 2012年8月26日発売号掲載)

第一段階クリア?

ビートルはどうですか?」と素人さんはもちろん、業界関係各位からも聞かれる。やっぱり気になるんだ、皆さん。笑

ザ・ビートルの前、ニュービートルは、何はともあれデザインありきのクルマだった。元祖と似ているかどうかさえもさておいて、現代(当時)のビートル像を追求したデザインだった。それは一般的にとても受けたように思う。この業界筋でも、小さからぬ話題となった。けれど、実際に目の前にニュービートルがやってきて、乗り込んでみて、走ってみて共通認識となった評価は、その話題性とは裏腹に厳しいものだった。

その大きな原因のひとつに、ベースであるゴルフのよさをまったく生かせていなかった空間設計があった。けれど、(どんな不都合かは以前にこのレポートで触れているので割愛するが)それはザ・ビートルでほとんど改善している。この業界にいる人たちなら外観を見ただけで想像できたはずだし、乗り込むチャンスがあればさらに納得したはずだ。だからこそ次の段階、すなわち“走り”に関心が移る。逆に言えば、冒頭の声はその段階まで皆さんが問題なく進んでいる証でもある。

機械的に明白なところでは、ザ・ビートルの日本仕様にはトーションビームのリヤサスが採用されている。ゴルフは4リンクで、そこが決定的に異なる。そして、皆さんが気になっているだろう“走りはどうなのか”のかなりの部分は、そのリヤサスを念頭に置いて発せられているはずだ。

はっきり言ってしまうと、能力は4リンクを積むゴルフより低い。それは通常の速度域でも感じられ、ちょっとした路面の荒れでもボディの揺すられ感が大きい。形状を含めたボディの造りが違うところも影響しているだろうけれど、重い足まわりが上下することで振動が大げさになっている感触がある。それに、旋回時にはリヤの限界が先にくるようで、場合によっては前輪に余力のある段階で後輪のグリップがおぼつかなくなる。

それではザ・ビートルの走りはダメなのかと問われると、そう単純ではない。第一にパワーがないから、ちょっとやそっとではリヤの不足をあからさまに意識するような局面に到達できない。それまでの領域では、むしろ前後のバランスが取れている。低い次元と言われればそうなのだが。第二に、ゴルフのように隙がない走りでは、ビートルらしくないのではないか。あくまでも私見だけれど、3カ月ほど乗っていてたどり着いた素直な感想だ。オリジナルのビートルが当時の感覚としてスキのないクルマと思われたのか、それともガタピシするけどかわいいヤツととらえられていたのかは存じ上げないが、少なくとも僕には、なんとなくガサゴソしていて曲がり方にも盤石感がゴルフよりは少ない今の感触が、とてもビートルらしく思えるし、乗っていて楽しい。

ただ、そういう意味では、DSGが少々利口すぎる気はしている。up!の5段AMTあたりが載っていたとしたら、きっと僕はもっとザ・ビートルを好きになっていただろうと思う。だからといって、もうAMTには戻れないのだけれど。残念ながら。DSGはそれくらいの、VWにとっての強力なキラーコンテンツだ。あまりにも出来がいい。

(AUTOCAR No.114 2012年9月26日発売号掲載)

改めて感服

今月はあまり乗れなかったビートルだが、それでも収穫はあった。P.028からの特集で集めたBセグメントの4台に乗れたおかげで、改めてビートルの、あるいはフォルクスワーゲンの実力を確認できたからだ。

念のためにはじめに申し上げておくが、Bセグ4台がダメだったわけではない。ただ、たとえ色物的要素を意識して組み立てられている部分が少なからずあるとしても、やはりCセグメントとして土俵に立たされるビートルは、それもゴルフと主要なメカニズムを共有するモデルはきっちりしていると再認識した次第だ。

第一にボディのフラット感だ。100kgほども重量が大きければかなり有利だし、さらにサイズも大きいのだからなおさらとはいえ、そこには超えられそうにない壁があった。先月、ゴルフに比べると揺すられ感が大きいと書いたばかりだけれど、それは相手がゴルフだからと申し添えておくべきだった。Bセグ4台はもちろん、それらの上位モデルが相手でも比較にならない。

第二にDSGだ。これはもう圧倒的である。クラッチで動力伝達するダイレクト感には、いかに優れたトルコンA/Tでもかなわない。そのクラッチに7段のギヤを組み合わせた効果は絶大で、燃費性能ではBセグ4台を向こうに回しても遜色ないだろう。都心のみの一般道走行のみで、なおかつ流れをリードするいつもの走り方を変えず、ほぼ10km/ℓを達成した今月の燃費からして、おそらくそれは、そう間違ってはいないと思う。

そして第三に、車内環境である。たっぷりしたサイズのシートや静粛性の高さには紛れもなく車格相応、いやそれ以上の開きがあった。デザイン的なおもしろみでいえば一歩譲るような気もするが、質感の高さは今さら言うまでもない。

Bセグ相手にムキになられても……とおっしゃられたらそのとおり。けれど、件の4台に30万円ほど加えれば、つまりそれらの上級トリムを選ぶ予算に一桁万円足せば、ファブリックシート仕様のビートルに手が届くのだ。その部分だけを抽出すれば、一般的にはビートルを薦めたくなる。ゴルフも大きくは変わらないが、ポロではない4台から選ぶ嗜好に近しいのはビートルだろう。

それともう一点、新型ゴルフのスペックを見ていて思ったことがある。このクルマは新型ゴルフの、言葉は悪いが練習台なのではないか。プラットフォームこそゴルフⅥのそれだとしても、エンジンは足まわりは、アウディのA3がそうであったように、ゴルフⅦを煮詰めるうえで量産試作的役割も持っていたのではないか。であれば、新型ゴルフが気になっている人は、ビートルを試乗してみると、何か得るものがあるかもしれない。

最後に残念な報告も隠さずしておく。交差点の右折待ちで停車しているところから少し前に出ようとした瞬間、メーターパネルのESPの警告灯が点灯し、まともに走れなくなる事態に遭遇した。何気筒か死んで、トランスミッションも正常にシフトできないような感じだった。右折後すぐに路肩に寄せてエンジンを停止し、少し待ってから再始動したら復活したけれども、一度点検してもらおうと思っている。いずれご報告します。

(AUTOCAR No.115 2012年10月26日発売号掲載)

基本はVW品質

鋭い方はピンときているだろう。今月の走行距離、0km。そう、交差点の右折待ちで停車中警告灯が点灯し、まともに走れなくなる事態に陥りつつも奇跡の回復を遂げたわがビートル君だが、そのまま乗り続けるのもよろしくないだろうと思い、先月の締め切りを乗り切ってすぐにVWへ入院させることにした。だが、どうやら長期療養が必要らしい。今号の締め切り直前の今現在も戻ってきていない。詳細は次号にて。

そのあいだ、代車としてシロッコRをお借りしたのだが、とてもよくできたクルマだ。あれだけのパワーを気軽に扱えるFWDモデルはちょっと記憶にない。そもそも250ps超のFWDがそう多くないから当たり前ともいえるけれど。

それはともかく、どんな場面でも駆動輪は確実に路面をつかみ続けているようで、トルクステアや内輪の滑りを感じたりは、今のところ体験していない。サスペンションそのものというよりは、電子制御デフロックが効いているのだと思う。ここまで露骨に効くと、少し化学調味料っぽくもある。実際、クルマにとっての電制デバイスは化調そのものだから、例えにはなってないですが。

ただ、さすがに2.0ℓで256psともなると、アクセルレスポンスが乱れる場面もわずかだがないわけではなく、ペダルの踏み直しで予想以上に失速してしまうこともある。けれど、そこはDSGのパドルシフトで簡単にカバーできるし、そうして乗るべきなのだろうから不満はない。

このパワーとトラクションはコーナリングにもおそらく効いていて、つまり加速によるリヤ荷重増加を積極的に使えるおかげで、とても旋回姿勢が安定しているのだ(ちなみにこの個体に装着されているピレリP7のグリップ自体はそれほど高くない)。パワーの差もさることながら、ここがビートルといちばん違いを感じる部分だ。

トーションビームのビートルで同じ効果を期待して、マルチリンク+XDS+256psのシロッコR並に飛ばそうとすると、突っ込み速めの微修正舵入れつつので状況的にはかなりがんばっている感が出て、ランデブー状態のときにはそれを見透かされているかと思うとやや恥ずかしい(ついていこうとするのが無謀だし、気持ちしかついて行けてないからそうなっている)。

だが、じゃあ無理めはやめよう、身の丈に合ったペースにしようと、そうすると、ビートルの見え方はけっこう違ってくる。トーションビームのリヤサスはほどよく抜けて旋回を助けてくれるから、意外にアンダーステアが出ない。おいしいツボは広くないので速度管理に注意する必要はあるものの、収まっているとかなり気持ちよく曲がっていけたりする。しかも、4つのタイヤとスプリングとダンパーとサスペンションアームだけで曲がる清々しさがある。速くはないとしても。

要するに、再び例えを用いるなら、シロッコRはレンズがたくさん入ったズームレンズで、ビートルは最小セットのそれといったところか。シロッコRほどフレキシブルではないけれど、ハマればいい画が取れますよと。同じVWのエンジニアリングだから基本品質は近しいとして。例えが意味不明? レンズはよく知らないのでご容赦を。

(AUTOCAR No.116 2012年11月25日発売号掲載)

明けると開くかも!?

3週間の療養期間の末にようやく手元に戻ってきたビートルは、どうやらたいした病状ではなかったようだ。修理内容はECUの交換のみだったのである。では、どうしてそんなに長くかかったのか? 今回、挟み込み防止が過敏に反応していたパワーウィンドウの点検も一緒にオーダーし、左右のモーターを交換することになったのだが、補修部品が欠品していたためというのがその理由だ。

そういうわけで、気になっていたすべての問題が無事に解消し、通常業務に返り咲いたわがビートルの最初の任務は、奇しくもフォルクスワーゲンの新型車試乗会だった。そのメインディッシュであるクロストゥーランとティグアンFWDがどうだったのかはP.60からの国内初試乗記事をご覧いただくとして、そこに参加していた個人的注目車について少しお知らせしておきたい。そう、写真を見ておわかりのとおり、ようやくデリバリーが開始されたファブリックシート仕様のビートルである。

シート表皮の素材に限らず、全体に装備をグレードダウンして250万円という嬉しいプライスに抑えたこの標準モデルは、303万円のレザーパッケージに比べるとヘッドライトがバイキセノンからハロゲンになり、レインセンサーと自動防眩ルームミラーとパドルシフトが省かれ、フルオートのエアコンがマニュアル化され、インストルメントパネルの中央に表示されるマルチファンクションインジケーターが簡易版で、ステアリグホイールのオーディオコントロールがなくなり、ホイールサイズが17インチから16インチになっているのがおもな違いだ。

装備レベルを価格差相応と見るかどうかは個々人の考え方次第なので言及しないが、それ以外にひとつ、ぜひとも試乗して確認していただきたい相違点があった。乗り味の明確な違いだ。

105psの1.2ℓエンジンには少しばかり上等すぎた感のある17インチの55扁平タイヤが、幅は同じながら60扁平の16インチに変わった影響は小さくなかった。まず、路面の不整に対するボディへの負担が明らかに小さくなっていて、すっきりした乗り心地になっている。レザー仕様はそのタイヤのおかげで重厚な安定感が味わえたが、引き替えに足の動きに重さがあるのも事実で、それをゴルフと比べて惜しむ声もあった。ファブリック仕様ではそれがとても軽快になっている。シート表皮の柔らかさによるところも少なからずあるだろう。

変化は当然、コーナリングにも表れている。タイヤ自体のグリップがずいぶん下がるので、旋回速度自体は幾分低くなるのだが、それだけに限界域での動きがマイルドで、4リンクではなくトレーリングアームを採用したリヤサスによる前輪優勢の走りを自然に楽しめるようになっているのだ。重厚な造り込みをゴルフの味わいとするならビートルはもっと軽いタッチがよく似合っているように個人的には思うので、その意味で標準モデルの乗り味はとても好印象だった。ただ、レザー仕様の装備レベルにすっかりなじんでしまった今、それでもファブリック仕様を選ぶかと問われると悩ましいのだけれど。ましてや2013年中にカブリオレも追加されるかもしれないとなると、悩みは深まるばかりだ。それはともかく、ビートルの購入をお考えなら、状況が許すならぜひ2台とも試乗してみていただきたい。

(AUTOCAR No.117 2012年12月26日発売号掲載)

カブトムシは冬眠するのか

コンピューターとパワーウィンドウのモーターを交換してからというもの絶好調で、以来、取り立てて報告すべき問題は発生していない。ドライブトレインや足まわりの経時変化もほぼ落ち着いており、日々の業務を淡々と頼もしくこなしてくれている今日この頃である。

一方、ビートルを取り巻く環境は僕の手元にやってきてから大きく変化している。季節の移り変わりだ。このビートルには梅雨が明けた直後あたりから乗り始め、今は冬まっただなかである。とくに今年に入ってからはすさまじい寒さで、装着しているコンチネンタル・スポーツコンタクトに対して路面温度が下がったときの不安を感じないでもなかったのだ。何せかなりのハイグリップタイヤだから。過去に痛い目に遭っている経験もあるので。けれど1月中旬の大雪で、幸い足元の感触にはそれほど神経質にならずともいいようだとわかった。走り出しを抑えめにして、人間側の環境順応を含む感覚とタイヤのウォームアップをしてやれば、取り立ててグリップの低下を感じずに走れる。

また、編集部と自宅がそれほど離れていないこともあって、油温の上がり方も気になっていたのだけれど、こちらは少しばかり注意したほうがよさそうだ。何しろ上がらない。水温がドライブコンピューター上でしか確認できない、つまり針式の水温計を持たないクルマだから気にしすぎる必要もないのだろうとも思うが、やはりオイルが冷えているときはエンジンの負荷は少ないに濾したことはない。

水温だけでなく油温まで確認できるドラコンのおかげで知ることができたのだが、具体的には、気温10℃以下だと10km程度は走らないとまともな油温まで上がらない。編集部から自宅までは約4km。まるで上がらないのは当然だ。これは何もビートルあるいはVW車に限った話ではないはずだから、記憶の片隅に置いておいて損はないと思う。

油温といえばATFを使うオートマの場合、やはり寒い時期は走りはじめの動作がぎこちなかったりするし、マニュアルだとレバーが重くてエンゲージしにくかったりするものだが、デュアルクラッチはほとんど何も変化がない。感じられない。そんな点でも素晴らしいですDSGは。

不満があるとすればエアコンだ。これは夏にも報告したが、どうもビートルはほかのゴルフ系より容量が小さいようで、オートモードだと冬はなかなか3目盛りより風量が下がらない。ちなみに夏はほぼ絶対的に2目盛りより下にはならない。もっともこれは、手動で風量を下げてレザーパッケージ車に標準装備のシートヒータを使用することで補える。それにそのほうが燃費もいい。自動車メーカーのエンジニアが血反吐を吐く(?)思いで稼ぎ出した燃費をユーザーが意味のない使い方で無駄にしてしまうのはどうかと思う。以前、クロプリー氏がコラムでそのことに触れていたが、完全に同意する。

その意味ではアイドルストップが大嫌いな僕も、採用車の増加を認めざるを得ないのだが、ビートルには装備されていない。これについては機会があれば、というよりもむしろ読者諸氏から賛同が得られるのなら、アイドルストップでどれくらいの違いが実燃費に出るのかを現実世界でテストしてみたいと思っている。いかがですか?

(AUTOCAR No.118 2013年1月26日発売号掲載)

あこがれのカブリオレ

とあるフォルクスワーゲン関係者からこっそりと教えてもらったのだが、どうやらまもなく新種のザ・ビートルが日本にやってくるようだ。ピンときた方はそう、そのとおり。カブリオレである。

僕がまだ免許を取るか取らないか、BMWの3が局地的に大衆車扱いされ、190が小ベンツなどと呼ばれていた頃には、それらよりこれ見よがしではなくて、それでいてじつはかなり高くて、小洒落ていて女子ウケも悪くないクルマの代表格といえば、ゴルフのカブリオレだった。それより上の世代だと、それがビートル・カブリオレになるそうだ。そのあたりの人たちに、ザ・ビートルのカブリオレは、どうやらかなり熱望されているらしい。

それを聞いたとき、先代のニュービートルにもカブリオレはラインナップされていたのに、なぜことさらザ・ビートルなのかと思ったのだが、空冷ビートルのカブリオレと見比べて納得がいった。ニュービートル・カブリオレの出で立ちは、否定するわけではないが、確かにどうにもニュアンスが違っている。なんというか、ファンシーなのだ。

造られた当時からすれば、モデルライフ終盤の空冷ビートルに抱かれた世間一般の印象は、まぎれもなくファンシー物件だったろう。けれど、クルマ好きから見れば内に秘める合理性やメカニズム的な独創性は揺るがなかったはずだし、だからカブリオレも、そんなバックボーンを持つ“本物”をベースにお遊び要素を盛り込んだ、“本物の変化球”として認められたのではないか。

翻って現代のニュービートルやザ・ビートルを見ると、どちらも空冷ビートルとはまるで成り立ちが違っている。前輪駆動のゴルフにリヤエンジン車でこそ合理的だったスタイリングを与えたところで、どうしたってオリジナルと同じ意味での“本物”にはなり得ない。であればと思い切りファンシー方向に振ったニュービートルは、それはそれで正しい選択だったように思う。でも、それでは空冷ビートルにあこがれた人びとには響かなくても仕方がない。

ザ・ビートルにしたところで本質的には変わりないのだが、こちらはオリジナルに近づけようとしたデザインが奏功して、ゴルフほどではないにしてもパッケージングに説得力がある。それがビートル・カブリオレ世代に、よりオリジナルに忠実なデザインと併せてちょうどいい言い訳というか、免罪符的に作用しているのかもしれないと思ったのだ。

かくいう僕も、ザ・ビートルのカブリオレには好意を持っている。ただ、そこにはノスタルジック成分は一切含まれず、クローズドボディのザ・ビートルに乗っていて感じる「屋根がないほうが気持ちのいいクルマになりそう」という感覚からだ。だから、試乗できる日が待ち遠しくて仕方がない。

なお、(まもなく旧型となる)現行ゴルフで僕がいちばん好きなのはカブリオレだ。そこには多少、過去の憧憬が影響しているのは否定しない。過去からの積み重ねで得られるブランドイメージは、消費者意識に強く影響するものだ。日和見的なモデルチェンジでそれを台なしにしているクルマも少なくないだけに、ザ・ビートルのカブリオレが成功して、業界に何か好影響を与えてくれることを期待する。

おっと、わがザ・ビートル、相変わらず絶好調です。まだまだ乗り続けたいと思っています。

(AUTOCAR No.119 2013年2月26日発売号掲載)

花粉ニモ負ケズ

今月はさまざまな新しいクルマに乗る機会に恵まれた。おかげでザ・ビートルは229km……どころかたったの22.9kmしか走行距離を伸ばしていない。そんななかでも感心ポイントがひとつ見つかった。エアコンに付いているフレッシュエアフィルターの効果のほどである。

自他ともに認める強烈な花粉症を煩っている僕にとって、2月末から5月上旬の外出は本当に苦痛だ。普段は都市部で行われると文句のひとつもいいたくなる新型車の試乗会も、この季節ばかりは歓迎したくなる。なのに、今年の2月から3月にかけて開催された試乗会や取材地は、なぜか山ばかりだった。時折吹く風でどばっと吹き出す花粉を見るだけで、目がかゆくなってくしゃみと鼻水がとまらない。なんとか取材を終えてクルマのなかに逃げ込んでも、エアコンを使えば外から花粉が吹き込まれる。内気循環にしたところで、自分の身体や荷物に付着した花粉も一緒に循環するのであまり効果はない。でも、ザ・ビートルだけは大丈夫だったのだ。

この期間に乗っていたほかのクルマだと、そもそもフィルターがないのか、あるいはあっても花粉除去能力がそれほど高くないのか、もしくはすでに詰まっていたのか、車内にいてもほとんど変わらないままの症状が、ザ・ビートルだと乗ってしばらくすると、軽くなっている。花粉以外にも黄砂やPM2.5と総称される大気汚染物質(ここまで粒子が細かいと素通しかもしれないが)が大陸から押し寄せる昨今、これは非常に嬉しい付加価値だ。

ざっと調べたところ、純正品は3000円程度で、交換も自分でできなくはない感じだった。高機能を謳う社外品もいくつか出ていた。たぶん他メーカー車でも同程度だろう。年に1回程度、花粉の時期を迎える前に交換しておくといいかもしれない。

もうひとつ、花粉がらみで気がついたのが、バックドアの構造だ。花粉の害は肉体面のみならず精神面にも少なからずダメージを与え、注意が散漫になりがちである。よってこの季節、ラゲッジスペースへ荷物を出し入れする際に開けたゲートの縁に頭をぶつける失態を見せがちなのだが、その点でもザ・ビートルはなかなか優秀なのだ。

バックドアの構造を見ると、ザ・ビートルではリヤウィンドウの上端のさらに前方にヒンジがある。そうすると開けたときのドアのせり出しが少なく、必然的に縁と頭との距離が離れる。また、ドア全体が高く持ち上がるので、身体を奥に突っ込んでも頭をぶつけにくい。小柄な人だとピンとこないかもしれないし、締めているときのドアの傾斜が強く荷室容量が小さいという弱点はあるものの、長身の人ならこれは確実に恩恵を感じられるはずだ。

さて、そういうザ・ビートル、ファブリック仕様のデリバリー開始から多少時間がたったせいか、このところ街中で見かける頻度が一気に高くなった気がする。ボディカラーは、僕自身はとてもこの赤が気に入っているのだけれど、黒と白が多いようだ。最近のTVCMでは黄色が露出されているので、今後はそちらも増えてくるかもしれない。

このクルマが走っているのを見かけるとちょっと嬉しい気持ちになれるのは、きっと僕だけではないと思う。そんな効果がより高い、黄色や赤が増えてくるといいなと、じつは密かに思っている。

(AUTOCAR No.120 2013年3月26日発売号掲載)

好きこそものの

現在4月中旬。このところの急激な夏化と春の名残が入り交じった気候のおかげで、上着なしでは震える気温から車内でも日に焼けそうな暑さから豪雨から、この1カ月はかなり幅広い環境を体験しながら900kmほどを走った。そういう体験を振り返って思うのは、ザ・ビートルは本当に淡々としたクルマだということだ。いや、フォルクスワーゲンが造るクルマは、といったほうが正しいか。

出発して最初の何kmかをクルマのご機嫌うかがいに使わなくてもいい。強風が吹こうとも直進安定性はほとんど乱れない。エアコンの効きで困らない。雨が降ろうと根本的な走行特性には何も変化がないし、電気系統のトラブルを心配しなくてもいい。“ない”がたくさんあるクルマなのだ。どんなときもほとんど気遣い不要で、同じ調子で走ってくれる。

クルマの完成度が高いのは、ユーザーとして素直に嬉しい。国産車のシェアが90%を超える日本の特殊な自動車市場は、そんな何ごともないカーライフを優先的に考える人が多いからだろう。もちろん同車格車を比べたときの価格差がいちばんの理由だろうけれど、ドイツ車だけが、それもフォルクスワーゲンが輸入車として頭ひとつ抜けた販売実績を挙げているのは、機械的な信頼性が少なからず優先されているからだと思う。

だからといって、ザ・ビートルに限れば、淡々としているだけでツマらないなんてこともない。ほかのVW車はいざ知らず。最大の理由は、乗る前に気分がアガるからだ。駐車場で待つザ・ビートルの姿が目に入ると、自然に笑顔気味になる(気味というのは他人に見られて怪しまれることがないように自制しているため)。乗り込んで視界に入る内装のデコレーションは、人間工学的にはウィンドスクリーンの先に向けるべき集中を削ぐとする見方もあるだろうけれど、ザ・ビートルに乗っているという実感を高めてくれて、個人的には好きだ。そういう気持ちで乗っているから、なんだかんだいってもクルマに意識が向いている。ステアリングやシートや音から伝えられる情報にも敏感になる。対話している気分になる。すなわち運転が楽しい。

こういう類ではない運転の楽しさがほかの国、たとえばイタリアやフランスのクルマには、全車とはいわないがあって、それが個人的にはかなり好ましくて、だからこれまでドイツ車にはそれほど心惹かれなかったのだが、姿形が気に入るというのはすごい力だ。3日で飽きる美人はきっと美人じゃないのだ。それともうひとつは、やはりクルマには、長く乗ってみなければわからないところがたくさんあるのだとも再認識した。

クルマにわずらわされるのがいやで、できる限りドライバーにとって空気で、ただ移動の道具としての機能を果たしてくれるものを望んで一部ドイツ車を選ぶ人も、なかにはいる。反対に、そうではない嗜好から、その一部ドイツ車を選ばない人もいるだろう。でも、きちんと付き合えば、そのドイツ車もただ淡々としているだけのクルマではないかもしれない。クルマは奥が深いです。今さらながら。

えー。そんなことを書きながら、じつはこのザ・ビートル、どうやらエアコンのガスが抜け気味なようです。冷風があまり冷えてない。本誌が校了したら、ちょっと点検に行って参ります。

(AUTOCAR No.121 2013年4月26日発売号掲載)

漏れ出づる悩み

作動させていると発生する、水を流している水道管のような音から予想したとおり、エアコンの不調はガス抜けだった。それもほとんどすっからかんに抜けきっていたそうだ。充填してもらって完璧に冷風を取り戻したが、まだまだ作業は完了していない。というのも、充填した際にどこから漏れているのかを確認しようとしたものの、勢いよく抜けてはいないため、特定にはいたらなかったのだ。そのため今回は蛍光剤を混ぜたガスを注入し、時間をおいてから漏洩箇所を探すことになった。

エアコンの冷媒は密閉された循環経路のなかで液化と気化を繰り返すだけなので、本来は減るものではない。したがって減ったということは必ずどこかから漏れているはずで、だから今も少しずつ抜け続けているわけだ。んー、すっきりしない。

さらに今回は、1万kmが目の前なので、入庫ついでにちょっと早めながら12カ月点検も実施してもらった。以前、ECUを交換しているが、それを含めて問題なし……だったのだが、どうやら点検項目や自己診断に引っかからない箇所に、不具合が生じているらしい。走行中にまれに、それもごく低速時に限って、タイヤの回転と同期したような擦過音が聞こえてくるのである。もちろん点検前に申告しておいたのだが、2泊3日のお預かり期間内では現象を確認できなかったそうだ。

なんとなく後方に発生源がありそうだが、だとすれば、回転するものはリヤアクスルしかない。仮にホイールに異物が貼り付いていたり挟み込まれているのであれば、常に異音が発生するはずだ。そういうわけで、ESPの誤作動が原因じゃないかと勘ぐっている。不要な(はずの)ときにリヤブレーキがほんの少しだけ作動して、パッドとディスクがかすかに当たるのではないか。まるで見当外れかも知れないが。いずれにしても、ごく低速時以外では発生しないし、頻度もかなりまれなので、これは特定に時間がかかりそうだ。よってエアコンの再点検に合わせ、本格入院させてみることになった。ことと次第によっては長くなりそうで、少々不安である。次号に間に合えば、これも顛末を報告したい。

約1万kmを走り終えた現在、それ以外、とくに気になるところはない。いたって快適に、気持ちよく乗れている。フォルクスワーゲンのクオリティに絶対的信頼感を寄せている人からすれば、それだけあれば十分ともいわれるかもしれないが、ドイツ車とはあまり縁がなかった僕からすれば、この程度はどうということもない些事だ。しかも、一度修理したトラブルは再発しない(今のところ)。たとえばトヨタあたりの圧倒的信頼性にはおよばないが、本国とはまるで交通や環境の違う外国で使われているのだから想定外のところもまだまだあるはずで、そう考えれば取るに足らない範囲である。何せドイツから見れば、日本は亜熱帯地方なのだ。

そんな亜熱帯の日本にとてもマッチするビートルに、今月ようやく少しだけだが乗れた。そう、カブリオレであります。4リンクのリヤサスと60扁平と開けっぴろげな開放感の組み合わせはかなりいい。気に入りました。試乗記事は70ページから。

(AUTOCAR No.122 2013年5月26日発売号掲載)

見せてもらおうか。最新のゴルフの性能とやらを

本誌特集記事をご覧のとおり、新型ゴルフの試乗会にこのザ・ビートルで駆けつけ、比較試乗をしてみた。両者を乗り比べての客観的かつ高い見識に裏付けられた判断はそちらをお読みいただくとして、常日頃、ザ・ビートルに乗る者として、感じたところを少しばかり述べておきたいと思う。

とにかくゴルフⅦのリファインの水準は圧倒的に高かった。それはザ・ビートルとの比較にとどまらず、現在のおよそすべてのCセグメントハッチバックに対する優位として特筆できるほどだ。本当に驚くばかりにスイートで、早1万kmを超えた個体ゆえの経年劣化を言い訳にできないほどの差が、このザ・ビートルとのあいだには存在した。販売店で両方に乗る機会を得られたとしても、第1希望がザ・ビートルならば、ゴルフⅦには乗らないでおいたほうがいいかもしれない。とくに“VWであること”が、購入動機の大きな部分を占める人であれば。VWならではの品質感や乗り味の洗練性は、まさにゴルフⅦに極まれりといった感だった。

一方、それはそれとして、静的動的ひっくるめ、ほかのVWと同等の高い品質感を前提とせずともザ・ビートルを好ましく思っている人もいるだろう。僕もそのひとりなのだが、そうであれば、当たり前ながら取り立てて気にする必要はないし、実際にそう思うだろう。でも、万が一、ゴルフの圧倒的高品質感に当てられてしまったとしたらどうか?
そういうときは、カブリオレがいいと思う。

ひとつには、こちらもまたリヤサスが4リンクだから。だからといって当然、ゴルフⅦと同等になるわけではないけれど、間違いなく乗り心地はかなり良好になる。加えて、これはベースグレードのクーペでも同じ印象だったのだが、タイヤサイズの違いからくるのだろう、そもそもの静粛性がレザーパッケージ車よりも高い。そのうえハードからソフトに変わったトップから外界の音が入りやすくなる以外にネガらしいネガはほとんどなく、もしくは気がついてもそれが痛恨事にはなりにくい。

もっとも僕自身は、“VW車か否か”とは離れたところも気に入っているので、今のレザーパッケージに不満らしい不満はほとんどない。いちばんはデザイン的魅力であり、こう見えて意外に高速域で俊足であり、そして何よりゆったり走っていても気持ちいい雰囲気だ。もちろん優秀な7段のDSGや、都心4割、高速6割でこのところ11.5km/ℓ前後に安定している燃費に代表されるVWならではの価値にも満足度を深めているのだけれど。強いて不満を挙げるなら、オートライトがないくらいか。いや、これは全車に共通する仕様なので、ことさら取り上げるべきものではないだろう。要するに、ゴルフⅦに乗ったあとでも、ザ・ビートルへの個人的満足度は目減りしていないということだ。

さて、懸案の異音だが、今月は出番が多く、点検に出せずじまいだった。ただ、1カ月ほど乗り続けているうちに、少し様子が変わってきた。発生する条件と症状が広く浅くなってきたのだ。これまではおおむね50km/h以下で、減速動作をしたあとに発生する頻度が高かった。それが100km/h付近でも、減速と無関係と思われるタイミングでも、音が出るように変化した。ただし、音量は小さくなっている。これはいったい……と次号へ続く。

(AUTOCAR No.123 2013年6月26日発売号掲載)

22km/ℓ突破!

ザ・ビートル、13回目のレポートです。そう、僕の手元にやってきてから丸1年が経過しました。パチパチパチ。あっという間に感じるのはトシのせいか。長いといえば長いし、長期レポートを名乗るからにはこれからが本番ともいえるし、とにかくまるで飽きることなく乗り続けている。

このところ気になっているのは、もう何度かお伝えしている推定リヤまわりからの異音だ。今月もまた点検に出す機会を作れず、そのまま放置状態なのだが、不思議なことに先月からさらに異音発生頻度が低く、しかも発生しても小さくなっている。同乗機会の多い、このページの写真を撮影してもらっているハナムラさんも「なんだか音、しなくなりましたねえ」と認めるくらい収まりつつあるのだ。

少なくとも走行に自覚できる影響もないので急を要してはいないと勝手に判断しているけれど、あるとき突然とんでもないことになる可能性がゼロではないだろうから、これについては早急に手を打ちたい。いやむしろ手を打たねば。

そのハナムラさんに、こうも指摘された。「なんだかリヤの突き上げが強くなってないですか?」。いやそんなことはないと思いますけど。強いて原因と思しき事由を挙げるなら、少し前に乗ったカブリオレの感触が残っているからだろうか。1サイズ小さい16インチホイールに履いた60扁平タイヤと、4リンクのリヤサスペンションのおかげで、比べるとレザーパッケージ仕様より明白に向こうのほうが乗り心地がマイルドだからだ。きっとそのせいに違いない。あとはタイヤの空気圧?
そういえば2カ月ほどチェックしていなかった。

さて、今月はなんの因果か白黒に塗り分けられたり塗り分けられていないのに同じ任務に就くクルマに遭遇する機会が頻発し、高速道路ではゆったり巡航が多かった。それでも走行距離の3割ほどは都心の一般道なので、1カ月間の燃費は13.1km/ℓにとどまった(それでも月間2番目の好燃費だ)が、高速道路区間だけを抽出すると22km/ℓ超えがザラにあった。1.2ℓターボ+7段DSGの威力を、丸1年を経過して改めて実感した次第である。

一方、けっこう長く乗っているんだなあと実感したのは、ナビに載っていない道がいくつか出てきたところだ。それ以外には、日常的に乗っているために気づきにくいとはいえ、とくに経年劣化を自覚する箇所はない。比較試乗のために沢村慎太朗さんに乗っていただいたときも、取り立てて劣化は感じられないといってもらえたくらいだ。これがVWクオリティというヤツなのか。

なお、このザ・ビートル、ドイツ本国の製造ラインで装着されるナビではなく、日本製の汎用品が装着されている。なのできっと地図をアップデートすれば上記問題は解決するだろう。そしてこの汎用ナビが、この個体で気に入っている点でもある。

というのも純正本国ナビには、消音状態にしてエンジンを停止しても、次に始動する際にはセットしたボリュームに自動的に復帰する機能が付いているのだが、その使い方がいまいちよくわからないからだ。取扱説明書を見てそのとおりにボリュームゼロをセットしても、なぜか、いつの間にか音量が増えている。これの使い方をご存じの方がいらっしゃったら、ぜひ正しい方法をご教示賜りたい。

(AUTOCAR No.124 2013年7月26日発売号掲載)

BかCか

ザ・ビートルで迎える2度目の夏は、過日、エアコンのガスを補充してもらったおかげで快適に過ごせている。そのときに混ぜた蛍光剤による漏洩場所の特定は、異音問題と一緒に見てもらうつもりでいたのでまだできていないのだけれど、ひとまず急激に漏れているわけではないようで、体感的には効きが落ちていないためそのまま乗り続けている。いい加減、点検に行かなければ。

さて、今年に入って日本導入がはじまったハッチバック車の何台かに試乗してみて改めてザ・ビートルについて思ったのは、機械的内容とサイズと装備と価格の絶妙なバランスだ。なかでも室内や荷室の余裕は、やはりこのところ多数登場したBセグメントとは、当然ながら確実にひとまわり違う。

といっても僕の場合、荷物といえば取材に際しての撮影機材くらいのものだ。箱物ではないからたいていはコンパクトカーでも積めてしまう程度の量だが、ここぞというときの大きめの脚立やカメラを先端に取り付けて使う竿などは、ある程度の長さあるいは面積的広さが荷室になければ積み込めず、それがBセグメント車では制限になる場合もある。けれど、Cセグメントのザ・ビートルなら、当たり前ながら4人乗車でも問題はない。

もちろんリヤエンドが切り立ったゴルフに比べれば、背中が丸いザ・ビートルは、箱物の収納力は明らかに落ちる。フロアに並べられる数はほとんど変わりなくても、積み重ねられる量に差があるのだ。このあいだ、通常サイズの衣装ケースを積んでみたのだが、フロアにはふたつ置けても、その上にはひとつしか重ねられない。2段目は手前側を少し多めに空けておかなければ、閉じたハッチに干渉するからだ。それで支障がある使い方をされる方は当然、ショールームで確認されるだろうけれど、たとえばスーツケースを4個積む可能性があるなら、できれば実車で確かめておいたほうがいい。

室内の広さについてはだいたい想像してもらえると思う。ザ・ビートルは全幅1830mmと意外に幅広く、それが余裕のシートサイズとヒジまわりの空間につながっている。とくにシートはサイズ≒クッション量でもあり、長時間乗車での疲れが違ってくる。後席の頭上空間は、やはり背中が丸いために万全とはいえず、後頭部に直射日光が当たってしまうリヤウィンドウが気がかりだ。ただ、空間自体は長時間でも苦痛はないと思う。

それと、コンソールまわりのスイッチが大ぶりで押しやすい。走行中に操作するエアコン関係はボタンも多く、コンパクトカーではサイズが小さめだったりするのだが、これもひとつ上の余裕といったところか。エアコン操作パネル下の小物入れも使いやすいサイズで何かと助かっている。

結局のところ、環境が許すのならクルマはサイズが大きいに越したことはない(ただしエンジンルーム以外は)。でも、世界的にはCセグメントの販売は頭打ちで、Bセグメントが伸びに伸びている。所有してしまえば、Bセグメントでもなんとかなってしまうのか、それともそれに合わせたライフスタイルになるのか。こればかりは実際に日常的に使ってみなければわからない。でもまあ、僕の場合、諸環境がCセグメントを許容するので、当面はこのままザ・ビートルを楽しんでいきたいと思う。

(AUTOCAR No.125 2013年8月26日発売号掲載)

話のわかる相棒

クルマというものは、1世代違うだけでずいぶんと乗り味が違うものだ。ほんの少しだけながらまたゴルフ(のGTI)に乗り、そう思った。この場合、ゴルフとビートルだから最初から性格付けが違う部分はあるにせよ、やはり1世代の違いを実感する。ブランドや車種を問わず、ここ2世代ほどのモデルチェンジによる変化にはある程度だが共通した風合いがあるように思うのだが、それをゴルフⅦとザ・ビートルのあいだにも感じるのだ。

それは、具体的ではない言い方になってしまうけれど、“ドライ”な感触だ。さっぱりと歯切れよい軽さと堅さである。追加した装備を除いた実質的な車重を減らしつつ、構造体の剛性を高めているためなのだろうか。数値的な剛性が変わらなくても、骨格が軽くなれば相対的に剛性は高くなる。その分、ある1カ所から加わった入力は素早く全体に伝播するので、ボディが軽く動いている感じがする。

あるいは姿勢制御デバイスの都合上、タイヤの接地圧が大きく変化するのを避けるため、ホイールストロークを規制したい考えがあるからだろうか。それでも乗り心地はほぼ全部のクルマで旧型よりよくなっていて、つまり総量は抑えられていても動きは速く、だから街乗り程度だと軽快感が先に出る。けれどロール量は規制されているから、大げさなアクションを出さずに曲がっていってしまう。

それはおそらく、純粋な自動車工学的にはきっといい方向なのだろう。けれど、僕にとっては必ずしも全面的に嬉しいことではない。軽く素早く反応が返ってくるということは、自分の操作に対してクルマが反応を返すまでのタメが短いということだ。それが少しもの足りなく感じてしまうのだ。僕の反射神経が、もはや最新のクルマについていけなくなっている? そうかもしれない。昔は300ps超のクルマに乗っていても、もっとパワーが欲しいと感じたものだけれど、今はとてもじゃないが、以前のようにはアクセルを踏んでいられない。

自動ブレーキが当たり前になりつつある今、その先に見えているのは自動運転だ。だったらタクシーでいいじゃないかと個人的には思っていて、だから自分で運転するクルマとして生き残れるのは、運転そのものが楽しいものだけじゃないかと思う。その根源にあるのはクルマとの対話であり、であれば今のクルマの進化は必ずしも、少なくとも僕にとっては全面的にいい方向には向かってはいない。

そういうわけで、新しいゴルフはすごく進化した今現在のクルマだと思う反面、ザ・ビートルに乗り換えるとほっとした気分になった。ザ・ビートルが旧世代だといっているようなものだが、実際に最新のゴルフよりは世代がひとつ前で、それは事実として動かしがたい。でも、それがいいと思えるところもあるというのがこの話の核心だ。

なんにしても、レースをしようというのではないのだから、0.1秒の速さがロードカーにとっての絶対的優秀性の決めてにはならない。はるかに高次元ながら、本誌40ページからの911ターボSと12Cの対決も、本質的には同じ視点で論じられている。けれど、いかにも最新世代の乗り味にも、きっと進化した形の対話性を埋め込めるはずだ。進化の段階がさらに上がっても、そんなクルマが絶えずにいてくれることを願うばかりである。

(AUTOCAR No.126 2013年9月26日発売号掲載)

丸く収めるカタチ

他社製品の話で恐縮だが、今月のホットニュースをご覧のとおり、次期ルノー・トゥインゴはRRになるそうだ。ミニや500に対抗できるファッション物件に移行する手立てらしいが、そういう意味ではザ・ビートルの先代、ニュービートルのほうが先駆だ。いたるところに円弧を連ねた内外デザインはとても衝撃的だった。いろいろな意味で。

後を継いだザ・ビートルはそこまでデザインコンシャスではなく、タイプ1に近づいたシルエットは実用性に関していえばかなり常識的だが、それでも個性という点では今なおトップグループにいるクルマだと思う。なかでも(一部カクッと折り目ができたが)弧を描くルーフラインは、デザイン面にとどまらず、ザ・ビートルを特徴付けている。

これまた他社製品の話で恐縮だが、スバルの初代R1はビートルに似た丸っこい形をしていた。あれは当時は高価だった鉄の使用量をできるだけ減らそうとした結果だと聞いた覚えがある。それはともかく、結果としてその丸い形がボディ剛性に寄与し、その後さらに鉄の板厚を、言葉は悪いがケチることができたそうだ。そう、丸い形は剛性に効くのだ。

ザ・ビートルもそのとおり、ルーフラインのアーチに支えられているためか、曲げ剛性がかなり高いように感じられる。正確にはコーナリング時に感じるねじり方向への耐性に比べ、直線的な動きのなかで加わる入力に対して相対的に強い感覚がある。

現行モデルでは全車4リンクとなっているが、この初期モデルはリヤサスペンション形式がトレーリングアームで、攻めた走りでは同じ形式のリヤサスを持つゴルフⅥよりもわりと簡単にリヤがグリップを緩めてしまうのだが、それはおそらくボディのねじれによる接地圧の変化も少しは影響しているのだと思う。けれど、たとえば直線路で段差を越えたり急な下りから上りに入ったときには、意外なほどしっかりとした感触を返してくれるのである。

一般的な購入者意識としては、まず形が気に入るのが第一段階で、それから走りや居住性や利便性、そしてそれらに対する対価が自分の求める水準を満たしているのかがクルマ選びの基準となっているだろうけれど、その判断はある意味、正しく的を射たアプローチなのかもしれない。

それを本当に正しい判断にするには、まず、各部の寸法や形状がどういう意味を持つのかの理解が(おおよそであっても)必要になる。細かい話をすると、前後のトレッド幅をどちらかだけ5mmでも変えたなら、オーナーであれば最初にステアリングを切った瞬間、以前との違いを感じ取れるはずだ。

現代のクルマは2万点を軽く超える部品点数で構成されていると聞いたことがある。それだけのものを寄せ集め、しかも1tを軽く越える重量物であるにもかかわらず、わずか5mmの違いが感じ取れるのだから、クルマってものは本当に奥が深く、そしておもしろい。先月のこのページで書いたタメの話も、結局のところ根源は同じなのだろう。

ところでかねがねお伝えしてきた異音問題、いつの間にか完治してしまった模様だ。直してはいないので収束というほうが正しいのだろうか。とにかく平穏が取り戻された。擦れていた部分がすり切れたとしたら問題がなくもなさそうだが……とにかくしばらく様子を見ることにしようと思う。

(AUTOCAR No.127 2013年10月26日発売号掲載)

またまた新種登場

輸入車ではすっかり当たり前の装備となった感のあるDCTつまりデュアルクラッチトランスミッションだが、それをDSGの名で市販量産モデルに最初に持ち込んだのは、ご存じのとおりフォルクスワーゲンだ。このザ・ビートルに搭載される乾式クラッチプレートを用いた7段DSGは、低出力モデル用に追加された第2世代(という表現が適切かは不明だが)タイプである。

オートカーをご愛読いただいている方には説明するまでもないだろうけれど、最初に登場した6段のほうは湿式多板クラッチを使っており、したがって原理的に常時わずかに滑りつつ接続している。つまり、純然たるM/Tには伝達効率でおよばず、そしてクラッチの接続の完全な切断はできないわけだ。対する7段のタイプは、そのあたりがM/Tと同等と考えていい。ただ、クラッチ1セット分のスペースに2セットを詰め込む都合上、1セットあたりの摩擦面積は約半分になっている。それが低出力モデル用とされる理由で、伝達可能トルクは25.5kgmだ。一方、35.7kgmまで対応可能な6段タイプの制限は、油圧多板クラッチを冷却する必要上、6.5ℓもの作動油(7段タイプは1.7ℓ)を必要とし、それも含めて重量がかさんでしまうところにある。具体的には7段の70kgに対して6段は93kgだ。

高出力モデルのデュアルクラッチといえば、VW傘下のブガッティ・ヴェイロンやポルシェ、ほかにもフェラーリやマクラーレン、そこまで極端ではないモデルであれば、アウディやBMWあたりから次々とリリースされている。それらのなかには7段のギヤを持つタイプもあるが、いずれも湿式多板クラッチを使用していたと思う。なので乾式クラッチ式のDCTの使用例は、アルファ・ロメオ・ジュリエッタの170ps/25.5kgmあたりが上限だろうか。

なかにはランボルギーニなど、最新モデルであってもオートメイテッドM/T、つまり自動変速機構付きM/Tをあえて選んでいるモデルもある。表向きは十分な変速速度と軽さが採用理由として挙げられているが、サイズ的な問題もありそうだ。

そういうDSG、個人的には6段タイプを好んでいる。伝達効率は事実上、M/Tと同等と考えてもかまわないし、停車時でも完全に切れているわけではないので、発進時のトルク伝達がスムーズなのがその理由である。逆にいえばザ・ビートルの7段DSGにはそういった些細な不満を持っているのだけれど、だからといって6段に置き換えると、重さと効率の低下から、高速巡航時で(僕の場合)23km/ℓに達する実燃費が悪化してしまう。そういうわけで今、10月の仕様変更で追加された、旧ゴルフGTI用の2.0ℓTSI+6段DSGを積んだ“ターボ”にとても乗ってみたい気持ちでいっぱいだったりする。

そんなことを思っていたら、またまた新しいモデルが発表された。去る11月13日からウェブ限定で、“レーサー”なる特別仕様の購入受け付けが開始されたのである。“ターボ”と同じドライブトレインを積み、19インチホイールを装着したこのモデル、世界3500台限定で、日本導入は100台だけだそうだ。ハデなエクステリアと併せてとても興味深い。なお、本誌発売日時点で開催中の東京モーターショーに展示されているので、興味がある方はお越しの際にぜひVWブースにお立ち寄りあれ。

(AUTOCAR No.128 2013年11月26日発売号掲載)

ギャップ萌え

フォルクスワーゲンの公式ウェブサイトには、当たり前ではあるけれどザ・ビートルのページが用意されている。それとは別に、ザ・ビートル・カブリオレのページも用意されている。そしてそれら両方に、オーナーズボイスが掲載されている。見てみると40代、50代の方がかなり多い。輸入車を購入できる年齢層が低くはないという事情は多分にあるにせよ、あるいは恣意的に選ばれているのかもしれないにせよ(一律に評価が高いのも含め)。

それはともかく、年齢層が高めなのには、タイプ1の記憶がしっかりと残っている年代はそのあたりまでというのはありそうだ。そして、そういう憧憬を持ちつつザ・ビートルを選ぶ層には、クルマの本質部分にメーカーがお仕着せで用意する濃い味を求めていない人が少なからず、そんな志向性をザ・ビートルは満たしているから選びやすいのかもしれない。

今号のゴルフ特集で現行ラインナップすべてに乗ることができて、改めてゴルフに対して、これはある種、達観した人のクルマなんだなという実感を持った。なんというか、商業主義的に盛りつけられたクルマは卒業して、道具という側面を強めに意識しつつ本質的な要素を吟味している人が好むというか、そんな人が納得するようなタイプだと感じた。で、ザ・ビートルはそういうゴルフ(のひとつ前の型)をベースにしており、ただしデザイン的な付加価値をよりどころにしている点ではゴルフよりは外連味はあるが、機械としてはゴルフのそれを踏襲しているので試乗してみると押しつけがましさがなく、クルマに対して熱い思いを持っていない人には受け入れやすい……とまあそんなふうに想像したのだ。

僕自身はそこまでクルマに対して達観してはいない。けれど、仕事柄いろいろなクルマにちょい乗りする機会が多く、そこには過剰に豪華絢爛風だったり人工調味料が強めだったり何かを覆い隠そうとしているそのそぶりが見え見えだったりするものもあって、ちょっと食傷気味に感じたりすることはある。そんなクルマに試乗した帰り道、すがすがしく実直なザ・ビートルがとても嬉しかったりするのだ。正確にはゴルフ系のランニングギアや走りの組み立てに、だけれど、見た目とギャップのあるザ・ビートルのほうが、それをより印象的に感じる。

そんなザ・ビートルだが、二度目の冬でダウンサイジングエンジンの弱点を改めて意識している。始動後しばらくのあいだ、暖房の効きが弱いのだ。エンジン排気量が小さく、しかもターボでエネルギー効率が高いため、室内空間の割に発熱量が少ないのだから仕方ないといえば仕方ない。幸い、レザーパッケージ車にはシートヒーターが備わっているので、それを活用すれば解決できるが、ファブリックシートの仕様では装着されない。車内の冷暖房に関しては、欧州は日本よりも無頓着なのだろうか。オープンカーが根付いているのも関係しているかもしれない。

オープンカーといえば、ザ・ビートル・カブリオレに、特別仕様車が登場するらしい。1950〜1970年代にかけてのビートル・カブリオレをモチーフにしたコスメティックモデルだ。’50s、’60s、’70sの3モデルが用意され、ホイールやボディまわりにそれぞれの時代をイメージしたデザインやディテールが盛り込まれるという。ますます40代、50代の方にはたまらないクルマになりそうだ。

(AUTOCAR No.129 2013年12月26日発売号掲載)

個性派中の個性派狙い

この号が発売された3日後の1月28日、またまたザ・ビートルに限定車が出る。先日、カブリオレに3モデルが出たばかりだが、今度はクーペの標準モデルがベースで、Choco/Milk/Bitterの3モデルとなる。ご想像のとおりチョコレートのフレーバーにちなんだネーミングで、内外装がそれに合わせた配色になるのがいちばんの特徴だ。エクステリアはChocoとMilkがそれぞれ専用のトフィーブラウンメタリックとキャンディホワイト、Bitterが既存のディープブラックパールエフェクトで、インテリアはChocoがベージュ系、MilkとBitterはブラックを基本にシートの座面と背もたれのセンター部分がレッドになる。ほかに専用デザインの17インチホイールやバイキセノンヘッドライト、パークディスタンスコントロール、オートライト、レインセンサー、フルオートエアコン、スマートエントリー&スタート機能が特別装備されるという内容だ。価格は287.0万円で、レギュラーモデルのレザーパッケージから本革シートを抜いた分に相当する装備が標準モデルに加えられていると考えれば少し割安な感じだ。

そんなわけで今回は、日本で正式デビューして以来、これまでに発売された、ザ・ビートルの特別仕様車を振り返ってみたいと思う。

まず最初は、2013年5月に登場の“フェンダー・エディション”だ。フォルクスワーゲンの国内正規導入60周年を記念して設定されたモデルで、それにちなんで(いるのかどうか真偽は不明)600台が販売された。ギターやアンプで知られるFender社がはじめて自動車メーカーと共同開発したという“フェンダーサウンドシステム”をメインに、専用デザインの18インチホイールやバイキセノンヘッドライト、Fenderのギターをイメージした2トーンのウッドトリム、ファブリック&レザレットシートなどが特別装備されているといった内容だ。価格は315.0万円だった。

続いては、2013年11月の東京モーターショーでお披露目された“レーサー”である。その前の月にレギュラーモデルに加えられた“ターボ”をベースにしており、世界3500台限定のシリアルナンバー入りで、日本へは100台のみが導入された。ボンネットからバックドアまで連なったブラックストライプ、グレー&ブラックのスポーツシート、黄色のステッチが入ったステアリングホイール19インチの専用アルミホイールがおもな特別装備内容である。もとが高価なターボだけに、394.0万円とお高めだ。

そして昨年末に登場した、冒頭のカブリオレ3タイプだ。50’s/60’s/70’sのネーミングが示すとおり、その年代当時のビートルをイメージしたドレスアップが施されている。50’sはブラックのボディ&ソフトトップにメッキパーツをあしらい、内装ではレッド&ブラックのレザーシートを採用。60’sはライトブルーのボディに5本スポークホイールとブルー&ブラックのレザーシート。そして70’sはブラウンのボディにベージュのソフトトップとインテリアトリム、ディッシュタイプのアルミホイールだ。バイキセノンヘッドライトやGPSナビなどが共通の特別装備で、388.0万円となる。

なお、レーサーとカブリオレ3モデルは専用ウェブサイトからの申し込みによる販売のみで、まだ受け付けているようだ。フェンダーも、もしかすると店頭在庫があるかもしれない。気になるモデルが見つかったなら、早めのアプローチをお勧めします。

(AUTOCAR No.130 2014年1月26日発売号掲載)

はじめましてとさようなら

念願かなってザ・ビートルのターボに試乗する機会が得られた。旧ゴルフGTI相当の211ps仕様2.0ℓと湿式6段DSGの組み合わせはすがすがしいほどに強力だった。それが発進にせよ追い越しにせよ、それまでの速度から明確な強さで加速度を高めようとしたときに必要だった決意というか明示的な意思を用意せずとも、わずかに右足を奥へと送るだけでグイと前に出る。その力強い踏み出しは、自分よりも足の速いスプリンターと並んで走っているときに悟った、「そもそも一歩で進む距離が彼らは違うのだ」という諦観にも似ている。参りましたといいたくなる。それくらい、すごい。

ただ、その代償なのか、ターボラグが気にならないでもない。速度でいえば80km/h、エンジン回転数にして1800rpmあたりのピンポイントなシチュエーションながら、アクセルペダルの操作と実際に加速力が発生するまでのあいだに、ほんの一拍にも満たない程度にズレが感じられるのだ。日本で有料道路を利用する場合に多用される速度域だけに、そして試乗したのもそういう道だっただけに、ことさらそれが意識されてしまった。

もっともネガらしいネガはそれくらいで、身体になじんだ105ps仕様のザ・ビートルとは、本当に見えている世界が違う。空冷時代の、競技車としての評価も高かったビートルを現代に持ってきたような、そんな規格外感がターボにはある。また、これはターボに限らず2014年モデルのザ・ビートルに共通のスペックだが、4リンクのリヤサスは明らかにタッチが上質で快適だ。これからザ・ビートルを購入しようという人は、それだけで幸運だと思う。いや、それより先にザ・ビートルを入手していた人はそれだけ長く楽しめたのだから、それはそれで幸運か。

そういうわけで、今回を持ってザ・ビートルは退役となります。毎度のことですが、名残惜しいです。

(AUTOCAR No.131 2014年2月26日発売号掲載)

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