乗り手の気持ちを鷲掴み トヨタGR86へ英国試乗 完璧なエンジン 変化した方向性 前編

公開 : 2022.10.30 08:25

2代目へバージョンアップしたトヨタの86。絶品の先代を超える仕上がりなのか、英国編集部が評価しました。

英国では2年ぶんの台数が90分で完売

この試乗レポートは、英国の読者にとっては余り意味のないものかもしれない。この地へ導入される新しいトヨタGR86は、すでに完売状態だからだ。

2022年に注文の受付が始まると、先代で定評を築いた小さなFRスポーツクーペは瞬く間に売り切れた。ちまたで高評価の人気パティシエによる新作スイーツなどより、短時間だったといえるほど。

トヨタGR86(英国仕様)
トヨタGR86(英国仕様)

AUTOCARの英国編集部では、新しいGR86を半年ほど前に海外で試乗している。その反響も小さなものではなかった。2年ぶんの英国への割り当て台数が、たった90分で埋まったという事実を裏付けるように、素晴らしい印象を残してくれた。

GR86は、新車で購入できる内燃エンジンを搭載した手頃な価格のスポーツカーの、数少ない選択肢でもある。この事実が、人気へ一層の拍車をかけたのだろう。

今年の初め、スペインのモンテブランコ・サーキットで開かれたプレス向け発表会の後、ガズー・レーシングの技術者はスタビリティ・コントロールのソフトウエアに改善が必要だと考えたらしい。そのアップデートには、想像以上に時間を要した。

だが、ようやく英国でも注文者の手元へクルマが届き始めた。欧州では、運転支援システム用カメラとセンサーの装備義務が施行される2024年の半ばまでに、GR86の納車は終了する。それ以降の販売計画は、今のところない。

86を確実に成長させたトヨタ

この安全性に係る規制がなければ、2030年まで欧州でも販売できた可能性があるそうだ。ハイブリッド・モデルを多く提供するトヨタにとって、GR86が排出するCO2の割合は小さい。メーカー平均値を大きく引き上げることは、なかったという。

このセンサーやカメラの搭載を可能とするには、GR86のボディシェルを再設計する必要がある。フロントガラスの角度と、ルーフの高さを改めなければならない。その結果、空力特性も悪化することが想定される。

トヨタGR86(英国仕様)
トヨタGR86(英国仕様)

他の市場でも販売されるGR86にとって、欧州の規制に合わせた変更が与える影響は小さくない。一部の市場を諦めるというトヨタの判断は、理解できないものではないだろう。結果として、英国では90分での完売に至った。

果たして、限定的に英国へ届けられるGR86のドライビング体験は、そんな熱い期待へ応えるものだろうか。前回の内容を踏まえると、英国の一般道での評価が大きくひっくり返る可能性は低い。それでも、称賛に値する仕上がりにはあるだろうか。

先に明かしてしまうと、オーダーに成功した少数の幸運な人は喜ばれて良いと思う。予定より納車が遅れヤキモキされているかもしれないが、トヨタは86を確実に成長させた。届けられるまで待っていることを、誇らしく感じても良いかもしれない。

英国仕様のGR86で、筆者は1日中公道を思い切り運転させてもらった。期待を裏切ることはなかったとお伝えできて、筆者もうれしい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・ソーンダース

    Matt Saunders

    英国編集部ロードテスト・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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