痛快なホットハッチ トヨタGRヤリス フォード・フィエスタ ST お手頃ドライバーズカー選手権(2)

公開 : 2022.11.12 09:46

英国編集部が称賛する白眉のシャシー

サンドイッチをかじりながら、ランチ休憩を挟む。過去10年間がクルマ好きにとってどんな時代だったか、審査員の5名で意見を交わす。そこで導き出された答えは「愕然とするほどではないにしろ、驚くほど残念」というものだ。

振り返れば、いくつかの惜しまれる世代交代があった。審査員のマット・ソーンダースが指摘するのは、ルノー・スポールの失速。フォルクスワーゲンUp! GTIなど、魅力的なコンパクトカーの値上げも厳しい。

フォード・フィエスタ ST(英国仕様)
フォードフィエスタ ST(英国仕様)

スズキスイフト・スポーツやロータスなどが搭載していた、有能な4気筒エンジンの消滅にも心が痛む。マニュアル・トランスミッションの選択肢が極めて少ないことは、誰もが口を揃える。これは、それ以前からの事実ではあるけれど。

反面、お手頃ドライバーズカーとして選ばれた傑作が登場したことも間違いない。ランチを終え、これから乗り込もうとしているグリーンの8代目フォード・フィエスタ STもその1台だ。

最近フェイスリフトを受け、フォーカスに似たフロントマスクになり、3ドアボディは廃盤となった。だが、その内側には英国編集部が称賛する白眉のシャシーがある。

コーナーへ鋭く食らいつき、小さなホットハッチとしてこれ以上ない操縦の調整しろを備えている。気難しい素振りもない。

現実に能力を発揮できるドライバーズカー

2013年には先代のフィエスタ STを「現時点で最高のホットハッチ」だと評価し、お手頃ドライバーズカーに選出された。「現実の世界で存分に能力を発揮できる、リアルなドライバーズカー」だとも。

続く2016年には特別仕様のフィエスタ ST200がパワーアップして登場。再びお手頃ドライバーズカーに選ばれ、2017年の8代目は120kg車重が増え3気筒化したにも関わらず、優勝を掴んでいる。とはいえ、意見が分かれるモデルでもある。

フォード・フィエスタ ST(英国仕様)
フォード・フィエスタ ST(英国仕様)

フィエスタ STが突出して刺激的なホットハッチだということに、異議はないだろう。フロントアクスルに搭載されたLSDと鋭敏なステアリングレスポンス、巧妙に設計されたトーションビーム式リア・サスペンションが、ひたすら楽しい走りを叶えている。

筆者のドライビングスタイルでは、ブレーキを引きずりながらのコーナリングで、フィエスタ STほど充足感を得られるホットハッチは他にない。ワインディングでの運転は、まさに没入体験だ。

徐々にアクセルペダルを傾けながらトルクを掛け、正確にラインを辿りながら脱出していく過程は充足感の塊だし、200psという最高出力も絶妙。不足なく速いもののパワフルすぎず、安定性は失われにくい。

GRヤリスでは、こうはいかない。ラリー・ホモロゲーションのようなクルマだと、自分にいい聞かせることになる。もちろん、全開を追い求めたくなるアツアツ加減では、共通はしている。首の筋肉が鍛えられることも。

この続きは(3)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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