蝶のように優しくしなやか マツダMX-5(ロードスター) お手頃ドライバーズカー選手権(3)

公開 : 2022.11.13 08:25

気張らない価格で買える、最も運転を楽しめる1台を選ぶAUTOCAR恒例企画。2022年は趣向を変えて、過去10年の1番を選出しました。

ダンサーのように表現力豊かで鋭く旋回する

フォードフィエスタ STの複層的な体験は、表現が難しくもある。残りの4台にはない、個性的で特別な何かがある。ダンサーのように表現力が豊かで、絶妙な手応えを伴うステアリングホイールを介し、鋭く旋回していく。

リアアクスルが耐えきれなくなり、ラインが外れていくプロセスも単純明快。右足の加減でオーバーステアも自由自在。唯一、問題になるほどではないが、トルクステアが存在するのだが。

オレンジのマツダMX-5(ロードスター) 30thアニバーサリー・エディションと、グレーのホンダ・シビック・タイプR GT
オレンジのマツダMX-5(ロードスター) 30thアニバーサリー・エディションと、グレーのホンダシビック・タイプR GT

ダイレクトでクイックな操縦性を発揮させるのに、サスペンション・スプリングへ過度に負荷を掛ける必要もない。スイートスポットは確かにかなり高い場所にあるが、その手前でもエンドレスに楽しめる。

筆者は大好物といえるフィエスタ STながら、審査員のイリヤ・バプラートはそこまででもないと話す。「ドライバーを見越したようなフォードのスポーティな味付けが、あまり好みではないんですよね。もう少し落ち着いていてもイイ」

個人的にはフィエスタ STが今回のベストかと想像していたが、結果は違った。マット・ソーンダースは、オレンジ色のマツダMX-5(ロードスター)に惚れ込んでいる。思い切りカウンターステアを当てながら。

マリオカートでピーチ姫を追い詰める大ボスのクッパのように、ニヤニヤ笑いながら攻め立てる。楽さが留まらないようだ。

空を舞う蝶のように優しくてしなやか

マツダ・ロードスターは、いわずと知れた金字塔だろう。2016年には、全世界で販売100万台を記録した。その偉業は更に伸び続けている。初代の登場は1989年で、現行型は4代目に当たる。

小さな高性能スポーツカーとしては、前例がないほどの多売といえる。控えめなパワーの2シーター・ロードスターが、すべてのドライバーのためのクルマだということを物語っている。

マツダMX-5(ロードスター) 30thアニバーサリー・エディション(英国仕様)
マツダMX-5(ロードスター) 30thアニバーサリー・エディション(英国仕様)

パッケージングは、時代を超越した方程式に則る。パワーは控えめながら、回るのが大好きな味わい深い自然吸気エンジンと、小気味良いマニュアル・トランスミッションが、比較的軽くバランスに優れた後輪駆動シャシーに載っている。

今回お借りした30thアニバーサリーという特別仕様の場合は、本気度の高いビルシュタイン・ダンパーが組まれ、LSDも備わる。だとしても、基本的なシンプルさは変わらない。英国でも2万5000ポンド(約420万円)から我がモノにできる。

ソーンダースは、「空を舞う蝶のように優しくてしなやか」だと、限界領域での操縦性を語る。ちょっと詩的だが、彼の気持ちは理解できる。

英国マツダはオレンジ色のロードスターに、エコ重視のブリジストン・トランザを履かせて届けた。ポテンザではなく。グリップが制限される一方で、本来のシャシーバランスを存分に堪能することができる。ドライビング体験も、より芳醇なものになる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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