創業者が堪能した試作ボディ オースチン・ヒーレー100S クーペ 2660ccの4気筒 後編

公開 : 2022.12.18 11:00  更新 : 2022.12.18 11:28

2例だけ試作された、オースチン・ヒーレー100Sのクーペ。創業者が愛情を込めた1台を、英国編集部がご紹介します。

オリジナルはブラックとレッドのツートーン

「以前、100S用のスペアパーツを大量に購入する機会がありました。部品が目当てで、前のオーナーから毎年のように電話をもらっていたんです。ある時、ヘッドガスケットを買おうとしていた彼が口にしたんです。クルマを買わないかと」

「もちろん、買いました」。オースチン・ヒーレー100S クーペのオーナー、アーサー・カーター氏が振り返る。ONX 113のナンバーで登録されたワンオフ・ボディは、オリジナルではブラックとレッドのツートーンに塗られていたという。

オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)
オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)

「ブラックのルーフが好きではなく、すべてレッドに塗装しています。ブラックだと、ハードトップが載っているように見えたんです。でも、スタイリングを手掛けたデザイナーのジェリー・コーカーさんに見せたら、ツートーンの方が好みだったようです」

美しいスタイリングを生み出したジェリーの意見に反対するつもりはないが、筆者もレッド1色の方が見栄えすると思う。コレクターとして熱意も知識も半端ない彼が話す通り、まとまりのある容姿に仕上がっている。

弧を描くルーフがテールエンドと一体になったボディこそ、この100Sの魅力の中心だといっていい。全体的には馴染みのあるフォルムで、モデル名もすぐに思い浮かぶ。だが、明らかに他とは異なる。オースチン・ヒーレーを知っていると、一瞬戸惑う。

非常に美しいプロポーション

間に合せで、ハードトップを溶接したようなクーペとは異なる。丁寧に仕上げられ、プロポーションは非常に美しい。リアのクオーターガラスが、筋肉質に膨らんだリアフェンダーの上へ端正に収まる。ルーフラインが呼応するようにカーブする。

固定ルーフのMGAにも通じる雰囲気がある。しかし、ひと回り大きく、よりスポーティ。真後ろから眺めると、トランクリッドが少々大きすぎるかもしれない。

オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)
オースチン・ヒーレー100S クーペ(1953年/英国仕様)

「クーペのスタイリングを考案するにあたって、ソフトトップとサイドカーテン以上の安全性も得ています。スライド式のサイドウインドウは内側からロックでき、ロードスターのように車内のプルワイヤーが掴めません」

「そのため、当初はなかったドアハンドルが内外に装備されています。ドアロックも、約10年後に登場した3000スポーツ・コンバーチブルまで、オースチン・ヒーレーの量産モデルには与えられていませんでした」。とカーターが説明する。

「クーペではサスペンションのストロークを長くするため、シャシーのリア側に改良が施されています。これが量産モデルへ展開されたのは、1964年5月の3000 Mk5になってからでした」

車内を覗くと、アップライトなバケットシートに細身のステアリングホイール、トランスミッション・トンネルの奥から伸びるシフトレバーなど、オースチン・ヒーレー100の特徴は変わらない。加えて、経過した時間の風情が漂っている。

「インテリアはきれいに掃除した程度です」。レストアされ真新しい内装とは異なる、趣きが好ましい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームズ・ページ

    James Page

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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