真冬にサマーフェス気分 フォルクスワーゲンID.バズで海岸線を目指す 次世代の小さなバス 前編

公開 : 2023.02.18 09:45

最も幸福に満ちたBEVでのロングドライブ

あいにく、日取りは1年でも最も悪かったといってもいい。鉄道はストライキで停まっており、ロンドンの道は普段走らないクルマが加わり大混乱だった。空は分厚い雲に覆われ、最高気温はマイナス1度。路面には凍結防止剤が巻かれている。

ライムイエローのピカピカ・ボディは、撮影前に薄汚れてしまった。ところが実際は、これまでで最も幸福感に満ちた、BEVでのロングドライブになった。欲求不満で旅を終える、なんてことはまったくなかった。

フォルクスワーゲンID.バズ(英国仕様)
フォルクスワーゲンID.バズ(英国仕様)

目指したグレートブリテン島の南西部は交通量もまばらで、ラジオからは陽気なロックが流れていた。筆者の旅をお膳立てしてくれるように。そして、航続距離の心配ともほぼ無縁で済んだ。BEVでの旅では、最も気がかりなポイントになり得る。

ID.バズの駆動用バッテリーは、77kWhのリチウムイオン。近年のモデルとしては平均的な容量といえ、急速充電能力も最大170kWで、驚くほど速いわけではない。ロンドンのオフィスを出発した時点で、337kmの航続距離がメーターパネルに表示された。

当初は、西へ150kmほど走ったウィルトシャー州で、念のため充電しようと考えていた。英国の場合、人口の少ない小さな町では、充電インフラの整備はこれから。電欠は避けたい。そもそも、英国全土で遅れ気味ではあるけれど。

下道で偶然発見した120kWの急速充電器

だが今回は、交通量のまばらな下道を利用した。路面の塩分は少なく、トラックも少なく、道路工事も殆どなかった。時間は多少かかっても、穏やかに効率的に西を目指せた。必然的に、航続距離にも有利に働いた。

恐らく、110km/h程度で高速道路を飛ばしていたら、ここまで電費は伸びなかっただろう。ドーセット州の小さな町、セムリーで居心地の良いカフェと設置されたての120kW急速充電器を、偶然発見することにもつながった。

ドーセット州セムリーで発見した120kWの急速充電器に繋がれるフォルクスワーゲンID.バズ
ドーセット州セムリーで発見した120kWの急速充電器に繋がれるフォルクスワーゲンID.バズ

英国のサービスエリアは、気分が良くなる場所とはいえない。トイレは混んでいるし、ゴミ箱は溢れかえっている。友人の結婚式の翌日でも、妻と喧嘩しそうになる。その農家が営むカフェは、筆者の望み通りの場所だった。

好奇心旺盛な地元の人との会話を楽しみながら、充電をこなす。走行で汚れたID.バズは、年代物のT4ヴァナゴンより、年季が入っているように見えた。

カフェでは、焼きたてのソーセージロールと熱々のスープ、地元の果物で作られたジャムが待っていた。ID.バズが満たされるのを待つのに、理想的なラインナップだ。

珍しくないコーヒーチェーンで、休日の時間を潰すのはもったいない。暇つぶしに眺める、スマホのバッテリーが急激に減る心配もない。

54kWhぶんの電気代は、40.4ポンド(約6500円)。筆者と同行するフォトグラファーの胃袋に入った料理の値段も考えれば、サービスエリアより高く付いたことは事実だが、旅行のイベントの1つとして考えれば支払う価値はあるだろう。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    フェリックス・ペイジ

    Felix Page

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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