伯爵が愛したトポリーノ フィアット500 ブルー/ブラックのレーシングカラー 後編

公開 : 2023.07.22 07:06

ドライバーの努力が走りとして返ってくる

トポリーノの運転に、難しいと感じる部分はない。ドライバーの努力が、走りとして返ってくる。軽く回せ正確なステアリングホイールは、驚くほどクイック。小さなイタリア車らしく、見た目通り活発に扱える。ゴーカートのように小気味いい。

直列4気筒エンジンは滑らかに回転し、低い速度域でも粘り強い。短いホイールベースにも関わらず、乗り心地は落ち着いている。4速に入れても、ギアが鳴くノイズは聞こえてこない。

フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)
フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)

長く簡素なシフトレバーを前後に動かせば、3速と4速を躊躇なく行き来できる。だが、2速へ落とすには走行速度とエンジンの回転数を合わせる必要がある。1速のギア比は、アルプス山脈の道を前提に低い。

公道ラリーのミッレ・ミリアで、このトポリーノをドライブした勇敢なドライバーを讃えたくなる。リアエンジンになった1957年のフィアット・ヌオーバ500のような、実直な機械感とは一線を画すとはいえ。

初代オーナーのハウ伯爵は、このトポリーノでロングドライブも嗜んだ。第二次大戦時は、グレートブリテン島の北部、グラスゴーの駐屯地まで別のトポリーノで向かった。高速で運転し、レーシングドライバーだということを知らしめたとか。

現在の交通環境では、トポリーノを普段の足にすることは簡単ではない。エンジンはうるさいし、運転席からの視界も良くはない。クルマのサイズは大幅に異なり、横に並ばれるだけで恐怖を感じることもある。

伯爵の3台で唯一生き残ったトポリーノ

見事に復活を遂げた、ハウ伯爵のトポリーノ。彼が所有した3台では、唯一現存する車両だと考えられている。

ハウ伯爵が生きた時代の道は、おおらかだった。それでも、ロンドン中心部を運転するたびに、後方視界の悪さには悩んでいたと想像するが。

フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)
フィアット500 C トポリーノ(1955年式/英国仕様)

信頼性は、いまひとつだったようだ。伯爵の娘は、お抱え運転手が小さなクルマを押しがけする様子を、何度も目にしたとか。ロンドンに保管していた2台のうちの1台は、バックアップ用だったのかもしれない。

カーゾン・ストリートの自宅からバッキンガム宮殿の前を抜け、ザ・マルという通りへ出る。この直線で、彼は70km/h近くまで加速させたかもしれない。サイドバルブ・エンジンのフォードや、大排気量のデイムラーを追い越しながら。

レーシングカーのようにヒール&トウで2速へ落とし、パーラメント・スクエアの横を通過。貴族院がある、ウェストミンスター宮殿へ向かったに違いない。

フィアット500 C トポリーノ(1936〜1954年/英国仕様)のスペック

英国価格:575ポンド(新車時)/4万ポンド(約700万円)以下(現在)
販売台数:51万9646台(合計)
全長:3181mm
全幅:1276mm
全高:1346mm
最高速度:93km/h
0-80km/h加速:37.8秒
燃費:15.9-19.5km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:610kg
パワートレイン:直列4気筒569cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:16.5ps/4400rpm
最大トルク:3.0g-m/2900rpm
ギアボックス:4速マニュアル/後輪駆動

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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