鏡文字の「TURBO」ロゴ BMW 2002 ターボ オイルショックに襲われたレジェンド 前編

公開 : 2023.08.19 07:05

1970年代に大きな波風を起こした、2002 ターボ。オイルショックで短命に終わったレジェンドを、英国編集部が振り返ります。

半世紀前は特別だったターボチャージャー

浜辺では、老若男女が短い夏を楽しんでいる。その横を、シュワァ、シュワァ、というノイズを響かて小さなBMWが駆けていく。言葉は通じなくても、ターボチャージャーを積んでいることは理解できるはず。

路肩で構えたカメラマンは、流し撮りを試みる。映画「女王陛下の007」の冒頭で使われたポルトガル・エストリル海岸の道路、エストラーダ・ド・ギンチョを運転していると、自ずとロマンチックな気分になってしまう。なんと壮大な景色なのだろう。

BMW 2002 ターボ(1973〜1974年/欧州仕様)
BMW 2002 ターボ(1973〜1974年/欧州仕様)

それ以上に筆者の心を奪うのが、1974年式のBMW 2002 ターボだ。ターボチャージャーを量産車へ採用した先駆者といえ、モータースポーツとの縁も深い。フロントスカートは長く、ボディサイドにはストライプが踊り、やる気に満ち溢れている。

ただし、アクセルペダルを蹴飛ばすたびに繰り出される怒涛のパワーを期待すると、少し肩透かしを食らう。確かにたくましいが、驚きを生むほどではない。

同じクルマ好きでも、何に感動するかは世代によって異なる。ターボチャージャーは、その好例の1つだろう。Z世代とは違って、半世紀ほど前をご存知の人なら、特別なパーツだと受け止めるのではないだろうか。

1970年代から1980年代にかけては、高性能であることの象徴だった。実際のパフォーマンス以上の、誇らしいイメージすら伴った。日用品へターボという名前が充てがわれることすらあった。

ツーリングカー選手権での勝利が目的

このターボチャージャーを自動車にいち早く導入したのは、ドイツではなくアメリカ。イエロー・ティーポットと呼ばれた、ルノーのF1マシンへ採用されるより遥か以前から、インディ・マシンのエンジンはタービンで吸気が圧縮されていた。

公道用モデルでは、ゼネラル・モーターズ(GM)がオールズモビル・ジェットファイアを1962年に投入。V8エンジンにターボを組み合わせ、話題を集めた。

BMW 2002 ターボ(1973〜1974年/欧州仕様)
BMW 2002 ターボ(1973〜1974年/欧州仕様)

それに続くように、シボレーはコルベア・モンツァ・スパイダーにターボエンジンを設定。インターナショナル・ハーベスターのSUV、スカウトにもターボ仕様が追加されている。

他方、欧州でターボチャージャーの民主化を進めた1台が、1973年のBMW 2002 ターボ。コンパクトな2ドアクーペに過給エンジンが搭載された、初めての例といえた。

それより前、1968年の欧州ツーリングカー選手権ではワークスチームの2002が、プライベートチームのポルシェ911としのぎを削っていた。自然吸気の4気筒エンジンには、クーゲルフィッシャー式と呼ばれる機械式インジェクションが載っていた。

圧縮比は11:1で、最高出力は202ps/7500rpm。大きく張り出したオーバーフェンダーと、クロススポークのBBSアルミホイールが象徴的な容姿を生んでいた。しかし、911が3戦連続で勝利。ワークス体制のBMWは、劣勢に追い込まれた。

そこで、残りのレースを有利に戦うべく、グループ5カテゴリーの緩めのレギュレーションを活用。エンジンの右側に、KKK社製のターボをドッキングさせたのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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