最後まで特別だった アルピーヌA110 長期テスト(最終) 自動車史に刻まれるべき傑作

公開 : 2023.09.16 20:25

ベスト・ドライバーズカーの1台、A110。それを普段使いすることとは、どんな体験なのか。英国編集部が長期テストで確かめます。

積算1万3214km 最後まで当たり前ではなかった

わたしたちは、普段通りの日常が当たり前のことだと捉えがち。蛇口をひねれば水が出ることも、スイッチを押せば電気がつくことも。

自動車も同様だろう。屋外での数年間の駐車にも耐え、カンカン照りの酷暑でも長距離を走れ、水が氷る気温でも完璧に動いてくれる。

アルピーヌA110(英国仕様)
アルピーヌA110(英国仕様)

オーナーへ求められることは、必要な点検整備と給油・充電程度。毎朝、いつも通り乗れて当然だと思ってしまう。金属と樹脂、ゴム、半導体などが複雑に組み合わされた、非常に精巧なプロダクトだとしても。

ただし、アルピーヌA110は最後まで当たり前な存在にはならなかった。ステアリングホイールを握ることが、毎日楽しみでならなかった。長期テストのためにメーカーからお借りしているに過ぎず、返却する日が来ると理解していたからかもしれないが。

筆者はこれまでも、様々なクルマの長期テストを担当してきた。遥かに価格の高いモデルもあったし、心から気に入ったモデルもあった。だが、期限が来たら次のクルマへ乗り換えることにも、大きな抵抗は抱かなかった。今回とは違って。

A110の他に、もう一度乗りたいと思えるのは、BMW i8マクラーレン720Sの2台だ。AUTOCARの読者なら、理解していただけると思う。

殆どの人に知られていないアルピーヌの存在

A110は、現代的な多くのモデルとは明らかに異なっていた。発売された2017年でもそういえたが、バッテリーEVへのシフトが進む2023年では、一層当てはまるだろう。

スポーツカーと称するモデルは、他にも沢山ある。しかし、運転の楽しさという点で、並ぶモデルはほぼ存在しないと思う。

アルピーヌA110(英国仕様)
アルピーヌA110(英国仕様)

A110は、現在に至るまで大きな台数は売れていないが、間違いなく優れたクルマだといえる。悩ましいことに、アルピーヌというブランドは殆どの人に知られていない。そのかわり、ひねくれた考え方かもしれないが、非常に特別な存在にもなっている。

長期テストが始まる時、確認したいと考えたことが複数あった。ミシュラン・パイロットスポーツ4というタイヤは、A110に適しているのか。リミテッドスリップ・デフが備わらない事実は、気になるだろうか。6速MTは、場所を選ばず好ましいと思えるか。

そのいずれも、素晴らしい印象で応えてくれた。小さな荷室や、車内の少ない小物入れに、悩まされることもなかった。

実は当初、筆者はパイロットスポーツ4Sへアップグレードしようと計画していた。しかし、このコンパウンドはA110専用開発だと聞き、考えを改めた。さらに、冬場の悪天候下で空港へ急行した時の安定性にも感心させられた。むしろ、これが良いと思わせた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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