惹き込まれる曲線美 フェラーリ500 スーパーファスト 超富裕層のためのグランドツアラー(2)

公開 : 2023.11.04 17:46

フェラーリの節目となった歴代最速のグランドツアラー、500 スーパーファスト 優雅なピニンファリーナ・ボディ 英国編集部が貴重な1台をご紹介

25年間も姿を隠したシャシー番号8897SF

シャシー番号8897SFが振られた、フェラーリ500 スーパーファストのパワーステアリングは、2000kmほどで故障。高速域や濡れた路面での感触が改善することを知り、オーナーのサミュエルズ氏は直さなかったようだ。

主張される273km/hの最高速度を叶えるべく、彼はマイク・パークス氏へチューニングを依頼。しかし、実際にその速度がオリジナルで出ることが判明し、そのままクルマは戻されている。

フェラーリ500 スーパーファスト(1964〜1966年/英国仕様)
フェラーリ500 スーパーファスト(1964〜1966年/英国仕様)

1967年にサミュエルズはこの世を去り、2番目のオーナーとなったのがJAPエンジニアリング社のジャック・ピアース氏。リアワイパーを取り付け、ボディカラーをビアンコ・ポロへ塗り替えた。ホイールはレーシング・アロイへ交換された。

1977年に手放されると、フェラーリ・コレクターのジャック・クラウザー氏が購入。1985年まで管理し、走行距離を10万3000kmまで伸ばした。その後、複数の人物を渡り歩き、1991年にクラシックカー・コレクターが入手し仕舞い込んだようだ。

以降、シャシー番号8897SFは25年間も姿を見せることはなかったが、クラシックカー・ブローカーのサイモン・キッドソン氏が発見し購入。フェラーリのレストアを得意とするGTOエンジニアリング社へ引き取られ、2人のオーナーを楽しませた。

現在、この500 スーパーファストを管理しているのは、グレートブリテン島の南東部、グロスターシャー州に拠点を置くフェラーリ専門店。NAN 399Dのナンバーで登録し直されている。

エレガントでアグレッシブな曲線美

ボラーニ社製のワイヤーホイールへ、ドーナツのように太いタイヤが組まれている。ボディは低く滑らかで、実際以上にワイド&ロングに見える。エレガントでアグレッシブな佇まいが、強い印象を残す。

シンプルなデザインに思えるが、フロントフェンダーの峰が途切れることなく後方へ繋がり、とても魅惑的。サイドウインドウとリアガラスの関係性など、少しまとまりの悪い部分もあるとはいえ、パネルのギャップは小さく、曲線美に惹き込まれてしまう。

フェラーリ500 スーパーファスト(1964〜1966年/英国仕様)
フェラーリ500 スーパーファスト(1964〜1966年/英国仕様)

ホワイトのボディにタン・レザーの内装というコーディネートが、落ち着いた優雅さを引き立てている。眩しく輝くクロームメッキが、絶妙な軽快感を生んでいる。

フロントヒンジのボンネットを開くと、オイルフィルターとディストリビューターが2基並んだ5.0L V12エンジンが姿を表す。オイルフィラー・キャップが凛々しい。

搭載位置は低く後方で、大きなエアクリーナー・ボックスの下にトリプル・キャブレターが問題なく収まる。ラジエターは、耐久レース・マシンのように巨大だ。

インテリアは、この年代のフェラーリでは見慣れた雰囲気といえるが、パネル類のフィット感や仕上げの水準は非常に高い。ドアやトランクリッドを閉めると、カシリと収まる音が鳴る。高精度な仕事の表れだろう。

大きなナルディのステアリングホイールが、スッキリとしたキャビンの中で強く主張する。ダッシュボードには、所狭しとメーター類が並ぶ。灰皿には、フェラーリとピニンファリーナの旗がクロスしたロゴがあしらわれる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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