「最悪エンジン」の称号 キャデラック・セビル 可能性を見出した メルセデス300D ディーゼルの高級車(1)

公開 : 2023.12.10 17:45

史上最悪のエンジンの称号がふさわしい

しかし、コスト削減を目的に充分な強度を持つヘッドボルトは採用されず、ガスケットは簡単に吹き抜けた。クランクシャフトとエンジンブロックは割れやすく、インジェクターや燃料ポンプには故障が頻発した。

ディーゼルエンジンの不調ぶりに、ユーザーは団結。新しいエンジンへ載せ替える費用の80%をGMが負担することを求める、集団訴訟へ発展してしまう。このLF9型ユニットほど、史上最悪のV8エンジンという称号がふさわしい例は見当たらない。

キャデラック・セビル(1979〜1986年/欧州仕様)
キャデラック・セビル(1979〜1986年/欧州仕様)

欧州市場で2代目セビルが発表されたのは、1979年のドイツ・フランクフルト・モーターショー。ディーゼルの不評がどの程度広まっていたのかはわからないものの、多くのユーザーは、追加費用でガソリンエンジンのオプションを指定したようだ。

キャデラックほどの金額のサルーンを買える人は、支払えるガソリン代にも余裕があった。北米での価格は、2万400ドルに設定されていた。

バッスルバックやスラントバックと呼ばれた、テールが切り落とされたように急降下するセビルのスタイリングは、賛否を呼んだ。GMのデザイナーを率いたビル・ミッチェル氏の、最後の作品でもあった。

彼は1930年代や1940年代のロールス・ロイスなどで見られた、エンプレス・ラインへ影響を受けていた。特徴的な後ろ姿を嫌った人も多かったが、好んだ人も少なくはなかった。リンカーンやクライスラーも、同様の処理のモデルを提供している。

ディーゼルと縁が深いメルセデス・ベンツ

他方、欧州の高級ブランド代表、メルセデス・ベンツはディーゼルエンジンと縁が深い。収益の軸はV8ガソリンエンジンを積んだ大型サルーンだったが、1970年代の終りまでに、軽油を燃料にする中型サルーンを200万台ほど提供している。

キャデラックがディーゼルエンジンを採用したことへ、可能性を見出したとしても不思議ではない。実際、1981年までに北米で売れていた同社のモデルの約半数が、ディーゼルエンジンのW123型ミディアムクラス、240Dと300Dだった。

メルセデス・ベンツ300D(1976〜1984年/英国仕様)
メルセデス・ベンツ300D(1976〜1984年/英国仕様)

そこで1981年から1985年まで、W123の北米仕様はディーゼルエンジンのみへ絞られた。ターボ・ディーゼルエンジンを積んだC123 300 CDクーペや、W116型Sクラス 300SDも、この市場でのみ提供されている。

この300Dに搭載されたエンジンは、5気筒のOM617型ユニット。最高出力は当初81psだったが、後に88psへ強化されている。シリンダーヘッドは合金製で、ブロックはスチール。チェーン駆動のオーバーヘッドカムと、6枚のメインベアリングが組まれた。

6気筒ほど大きくなく、4気筒より滑らかで堅牢だった。技術者が長年培った知見が活かされ、大型の商用ユニットでは確立された設計でもあった。

OM617型ユニットは、1976年の発売当初からW123型へ設定。英国にも、サルーンとステーションワゴンのボディで、自然吸気の300Dが導入されている。

この続きは、ディーゼルの高級車(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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