適度な風格の「プアマンズ」ベントレー オースチン・シアライン ヴァンデンプラ・プリンセス(2)

公開 : 2024.01.28 17:46

似通った運転体験 粘り強い直列6気筒

ブラックとシルバーのボディは、トランク周辺のウッドフレーム以外、ほぼオリジナル。BBCのテレビ番組「アンティーク・ロード・トリップ」にも出演している。

運転席のシートポジションは固定。キャビンを仕切るディバイダーが備わり、インテリアはシンプル。2列並ぶリアシート側は豪華に仕立てられ、定員は8名。特別なお客様を運ぶためのリムジンらしい雰囲気で、シアラインより優雅に見える。

ヴァンデンプラ・プリンセス A135 4リッター・リムジン(1952〜1968年/英国仕様)
ヴァンデンプラ・プリンセス A135 4リッター・リムジン(1952〜1968年/英国仕様)

リアドアはリアヒンジ。開口部は高く、乗り降りしやすい。2列目の折りたたみシートを収納すると、ゆったりした3列目へ深く身を委ね、ダッシュボード越しに前方の景色を堪能できる。

一方で、シアラインのダッシュボードには四角いメーターが並び、ステアリングホイールは巨大。フロントシートも、オーナー自ら運転するのに不満ないゆとりがある。

リアシート側の空間も広大。小さなリアガラスにはブラインドが備わり、キャビンはプライベートな印象が強い。

トランスミッションは、どちらも4速マニュアル。パワーステアリングが備わらず、ドライビング体験は似通っている。タペット音を響かせながら、静静と加速。1速はノイズが大きくギア比が低いため、早々に2速へシフトアップするのが良い。

4.0L直6エンジンは、低回転域から粘り強く柔軟。2速から4速へ直接変速しても、特に問題はない。15km/hくらいから110km/h以上まで、滑らかに加速できる。スムーズな印象を刻みつけるように。

自然と敬意を払いたくなる佇まい

当時のヴァンデンプラは、プリンセスを素晴らしい市街地での移動手段だと主張していた。確かに、都市部の役員室から最寄り駅や空港まで要人を運ぶ、という走り方に適していそうだ。

ホイールベースが長く、2t前後ある車重のおかげで、乗り心地はしっとり。減衰力も良く効いている。

ブラックとアイボリーのオースチン・シアライン A125と、ブラックとシルバーのヴァンデンプラ・プリンセス A135 4リッター・リムジン
ブラックとアイボリーのオースチン・シアライン A125と、ブラックとシルバーのヴァンデンプラ・プリンセス A135 4リッター・リムジン

大きなリムジンに、操縦性は望めないかもしれない。ストレートでもカーブでも、少し速度域が高まるだけで高い集中力や予測力が必要になる。タイヤのスキール音と同時に、アンダーステアへすぐに転じる。

ステアリングホイールの操作には、常に気が抜けない。小回りは効かず、予想より遥かに何度も腕を動かすことになる。

シアラインとプリンセスは、オースチンを創業したレナード・ロード氏の野心を、1950年代初頭には見事に体現していた。だが1960年代の終りまで、プアマンズ・ベントレーの生産が続いたことには、内心驚いていたことだろう。

1947年の発表時でも、最先端の大型サルーンとはいえず、際立って美しいリムジンでもなかった。英国のクラシックカーを遡ってみても、1度は運転してみたい10台や、死ぬまでに手に入れたい10台に選ばれることはないはず。

だが、英国人として愛すべき何かを宿している。佇まいには、自然と敬意を払いたくなる。かつての英国を想起させる、確かな価値観を漂わせている。

2024年の世界観とは、合致しないかもしれない。それでも、往年の世界への入り口のような体験を提供してくれた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

オースチン・シアライン ヴァンデンプラ・プリンセスの前後関係

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