「雨でもオープン」でパトロール MGA 1600 デイムラーSP250(2) 多くの命を救った誇らしい歴史

公開 : 2024.02.25 17:46

1950年代後半から英国で敷設の進んだ高速道路 スピード違反を取り締まったMGAとデイムラーSP250 英国編集部が2台のロードスターをご紹介

天候を問わずオープン状態でパトロール

英国のロンドン警視庁へ、デイムラーSP250のパトカーが導入されたのは、1961年8月20日。「クラス1の試験に合格した、25歳以上の特別な隊員をデイムラーに割り当てます」。と、当時の警視庁幹部はメディアへ語っている。

広い視界を確保するため、隊員は天候を問わずオープン状態でパトロールしたらしい。目立たせる理由もあったようだ。1961年のデイリー・ミラー紙は、市街地を走る若いライダー・グループが、200km/h以上出るパトカーで取締りを受ける様子を報じている。

デイムラーSP250(1959〜1964年/英国仕様)
デイムラーSP250(1959〜1964年/英国仕様)

配備された3台のSP250のパトカーは、最初の1か月に140人をスピード違反で検挙。その活躍が知られると、他の地域の警察も導入を進めていった。ロンドン警視庁は、1964年9月の生産終了までに、合計26台を発注している。

1964年末、最後の1台のパトカー仕様が納入。1966年以降の新規車両は、サンビーム・タイガーへ交代され、SP250の運用は1969年に終了した。

551 CLUのナンバーで登録された、ジョン・ドーセット氏のSP250 パトカーは、警察の広報媒体にも登場。着任から最初の1年半は、事故防止を目的に、ライダーのたまり場を巡回したという。

そこには、ロンドン郊外のエース・カフェも含まれていた。常連客には、歓迎されなかったとしても。「以降はロンドン南部のソーントン・ヒースを拠点にし、1965年末まで現役だったようです」。ジョンが説明する。

「自分は2014年に購入しました。前オーナーが高齢で運転できなくなり、15年も保管されたままだったんです。ディファレンシャルをリビルドしましたが、それ以外、購入後は快調です」

レスポンスは信じられないほど 2速で160km/h超

MGAと並ぶと、SP250のボディは優しくカーブを描き、上品に見える。フロントガラスやドアハンドルの形状も美しい。

フロントシート側はゆったりしているが、リアシート側は大人が座るには厳しい広さだ。「運転席の後ろに、警察官の候補生を乗せていたという情報を、デイムラーから以前に聞きました。かなり狭かったでしょうね」。ジョンが笑う。

デイムラーSP250(1959〜1964年/英国仕様)
デイムラーSP250(1959〜1964年/英国仕様)

SP250のボディはグラスファイバー製。落ち着いた塗装色だが、テールにフィンがそびえる印象的な造形で、少し調和していないように見える。

「ロンドンの警察は、パトカーにブラックを選んでいました。堂々とした見た目で、コストを抑えられたからでしょう。その後のタイガーは、ホワイトに塗られていますが」

インテリアはMGAより豪華。ドライバーズシートは居心地が良い。運転が楽しいと、ジョンが説明する。「集中力を切らすことはできません。快適なクルーザーというより、ライトウエイトでレスポンシブな、万能なスポーツカーだと思います」

トランスミッションは、ボルグワーナー社製のオートマティック。高速隊は、マニュアルよりパトロールへ適していると判断したらしい。

「レスポンスは信じられないほどです」。と彼は付け加えるが、2速で160km/hまで豪快に加速できる。この勇ましさで、命知らずの若者ライダーの取締りが可能だったのだろう。V8エンジンの怒号と、ウィンクワース社のベルを響かせながら。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・ロバーツ

    Andrew Roberts

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

MGA 1600 デイムラーSP250の前後関係

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