【現役デザイナーの眼:トヨタ・クラウン】策士なトヨタの『攻め』のデザイン

公開 : 2024.10.18 20:05  更新 : 2024.11.08 18:24

皆さんはクラウン・シリーズのデザインをどのように感じているでしょうか? 今回解説するプロダクトデザイナーの渕野健太郎は「私も含めカーデザインの同業者は、見応えがあるデザインだと感じる方が多い」と話します。詳しい理由を、現役デザイナーの視点から読み解きます。

デザインテーマの引き出しの多さは世界一

カーデザイナーが日毎どのようなことを考えながらデザインしているかを感じていただくべく、今回、クラウン・シリーズのうち、特に印象的な『スポーツ』と『セダン』を中心に解説します。

クラウン・シリーズのデザインが同業デザイナーから評価が高い理由、それは、日本車の常識や高級車のセオリーから外れたデザインが挑戦的だからです。

クラウン・スポーツの初期スケッチ。上から見たビューの、ダイナミックなくびれに注目。
クラウン・スポーツの初期スケッチ。上から見たビューの、ダイナミックなくびれに注目。    トヨタ

クラウンは現在4車種が発表されています。デザイン的に注目すべきは、この4車種でそれぞれ『狙いが異なる立体構成』をしている事です。

ここで言う立体構成とは、ドア面を含めた一般部の立体と、前後フェンダーとの立体の構成などですね。実はここが、デザイナーが最初に考えるところなのです。

クラウンは、セダンが最も常識的な構成をしています。

まず前後に貫く大きな基本立体があり、そこに前後フェンダーがくっついているという構成です。これはカーデザインの基本的な構成で、ドア面のリフレクションが揺れないのでしっかり芯が通った印象が出ます。

それに対し、クロスオーバーとスポーツは、大きく2つのボリュームを際立たせる狙いで構成されています。

前端からリアドアの半分付近までをひとつのボリューム、その後ろにもうひとつのボリュームという感じです。この効果としては、上面で見た時の『くびれ』が強く見えるので、よりダイナミックな印象になる事です。

また、エステートの狙いは、ドア面がほぼ見えなくなるくらい前後フェンダーのボリュームを強調する事です。

これはダイナミックな印象になる反面、ドア面のリフレクションがかなり揺れるので芯が通って見えづらいのですが、このクルマを見ると、これも正解かなと納得させる質感があります。

トヨタは、デザインの引き出しの多さが世界一だと思います。

クラウンだけでもこのように数多くの基本テーマにトライしているので、プロのデザイナーは、一般の方以上にトヨタ・デザインに尊敬の念を持っています。

日本車離れしたプロポーション

特にクラウン・スポーツからは、皆さんもどこか欧州車的な情感を感じるのではないでしょうか?

それに最も寄与しているのが、スポーティな『プロポーション』です。

クラウン・スポーツのサイドビュー。プロポーションとしては、ポルシェ・マカンにかなり近い印象。
クラウン・スポーツのサイドビュー。プロポーションとしては、ポルシェ・マカンにかなり近い印象。    トヨタ

分かりやすい所で言うと、サイドから見た際のキャビンとロアボディの比率、それとタイヤの位置や大きさのバランスです。

通常、キャビンが小さくタイヤが大きい車ほどスポーティに見えるものですが、クラウン・シリーズは4車種全てスポーティに見えるような比率になっています。

これはパッケージ(ボディサイズと人やパワーユニットの位置、タイヤの位置や大きさ、その他補器類含めた基本的な構造の総称)でおおよそ決まるのですが、クラウンのパッケージがスポーティなデザインにすごく良い素性なのです。

人間に例えると、パッケージは『体型』なのに対し、デザインは『衣服』のような関係といえば、わかりやすいかもしれません。

多くの日本車は、不利な体型を衣服でカバーするようなデザインなのに対し、クラウンは元の体型が良いので、どんな衣服を着ても似合うんですね。

このようなパッケージにしたのは、グローバル展開に主眼を置いているからに他なりません。機能重視の、日本市場専用車であったこれまでのクラウンでは出来なかった事です。

気になる点を挙げるとすると、『しまい込み』の弱さ。ボディ下部はしまい込むことでタイヤをより強調出来るのですが、例えばポルシェのSUVやランドローバー系に比べるとしまい込みが弱いです。

この辺りは考え方の違いや様々な設計要件があるので、バランスを取ったと言う事だと思います。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、大手自動車メーカーにカーデザイナーとして入社。2023年『体力の限界」ということで惜しまれつつ? 引退。約20年間の現役時代は『自称』エース格としてさまざまな試合に投入され、結果を出してきた(と思う)。引退後はチームを離れフリーランスを選択。これまで育ててくれた自動車業界への恩返しとして、自動車の訴求活動を行っている。

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