使える最後の本物 生粋のスウェーデン車:サーブ900(3) モロに受けたGMの経営不振

公開 : 2025.05.18 17:47

航空機メーカーがルーツで、北欧の匂いが強いサーブ900 肉厚な鋼板でプレスされた高耐久ボディ 世界最高水準の衝突安全性 エンジンはトライアンフの派生版 UK編集部が魅力を振り返る

99の進化版 従来以上に増した個性

1970年代末に登場したサーブ900が、99の進化版だった理由は、開発資金と期間が限られたため。フロント周りを約200mm、ホイールベースを約50mm伸ばし、安全性と乗員空間を確保。全長は4737mmあるが、全幅が1689mmと、比較的スリムだ。

サスペンションは、前がウィッシュボーン式にコイルスプリングで、後ろはトレーリングアーム式。前輪駆動なことと、パナールロッドを採用することで、広い車内空間が生み出されていた。後席を倒せば、リアに大人が横になれたほど。

サーブ900 T16(1984〜1993年/英国仕様)
サーブ900 T16(1984〜1993年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

2025年の基準では、900が大きいとは感じない。スタイリングを手掛けたのは、同社のデザイナーだったビョーン・エンヴァル氏。最近では珍しい2ドアということもあって、900の個性は従来以上に強まっている。

サルーンでもコンバーチブルでも、サイドシルを覆うようにドアパネルが伸びている。うっかり足を近づけても、コートの裾が汚れることはない。ドアを閉めると、ガシンと噛み合う上質なノイズが響く。

特別感が薄い内装 考え抜かれたダッシュボード

今回ご登場願った3台の内、明るいメタリック・グリーンが2ドアのサルーンで1989年式の900 i。ダーク・グリーンが1983年式のターボ・カブリオレで、ワインレッドが1984年式のリフトバック、T16となる。

900 T16と900 iの内装は、頑丈そうなプラスティックと当時らしいベロアで満たされ、特別感が少し薄い。それでも航空機から着想を得たというダッシュボードは、レイアウトが考え抜かれている。

サーブ900 T16(1984〜1993年/英国仕様)
サーブ900 T16(1984〜1993年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

すべての位置が直感的で、座ってすぐに操作を把握しやすい。リバースにレバーを入れない限り抜けない、サイドブレーキ横のキーホール以外。

カブリオレに、横転時へ備えたロールオーバーバーは備わらず、強固なフロントピラーが乗員を守る。内装はレザー仕立てで、ルーフは電動で開閉する。リアウインドウがガラスなことと、荷室が殆ど侵食されないソフトトップは、当初から強みだった。

ヘアピンを3速で鋭く立ち上がれるT16

ターボ・カブリオレの低圧ターボは、900 iの滑らかさと、900 T16のトルク感を巧みに両立している。一方でT16の最高出力は177psあり、路面状態が優れない区間でも、心強い動力性能を担保する。

いずれも、トランスミッションは5速マニュアル。レバーの動きは、余り心地良いものではない。Cピラーが太く、斜め後方の視界は大きいものの、パワーアシストされるステアリングは反応に優れ扱いやすい。

サーブ900 T16(1984〜1993年/英国仕様)
サーブ900 T16(1984〜1993年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

デュアルサーキット・ブレーキは、滑らかに制動力を生み出す。少し活発に走らせると、アンダーステア。ブースト圧を維持するコツを掴めば、太いトルクを活かし、T16はヘアピンカーブを3速のまま鋭く立ち上がれる。

太いテールパイプからは、喉を唸らせるような低い響き。アクセルペダルを踏み込むと、フロントタイヤが軽くもがく。それでも、大きくラインが乱れることはない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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