【不安と課題は別にある】自動車メーカー決算を総括!怖いのはトランプ関税だけではない 中国戦略もEVシフトも先見えず

公開 : 2025.05.19 11:45

日本の自動車メーカー各社はGW明けから順次、2024年度通期の決算報告を行いました。都内で行われたトヨタ会見を現場で取材し、その他5社はリアルタイムでオンラインにて参加した桃田健史による、決算の総括です。

質問の多くがいわゆる『トランプ関税』

日本の自動車メーカー各社はGW明けから順次、2024年度通期の決算報告を行った。筆者は都内で行われたトヨタ会見を現場で取材し、その他はリアルタイムでオンラインにて参加した。

どの会見でも、各社の社長兼CEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)が、通期について売上高、営業利益、販売台数、キャッシュフローなど財務状況、そして配当に対する実績を説明した。その後、2025年4月から始まっている今期の通期見通しを示すという、通常の流れだった。

GW明け各社が順次、2024年度通期決算を発表。
GW明け各社が順次、2024年度通期決算を発表。    トヨタ自動車/本田技研工業/内藤敬仁/日産自動車

説明後、参加した記者との質疑応答になったが、質問の多くがいわゆる『トランプ関税』に関するものだった。なぜならば、今期の見通しでは、多くのメーカーが、販売実績が前期比レベルで維持することが可能とした上で、儲けを示す営業利益が大幅に減少すると想定しているからだ。

例えば、トヨタは34%減の3兆1000億円とした。

このうちトランプ関税の影響について、トヨタが現時点で「政府間交渉が続いており、先行き不透明」としながらも、一定の目処を示すために4月と5月の2ヵ月分として1800億円とした。仮にこれが通期に及べば、1兆円近い大きな影響となる。

ホンダでは通期で6500億円、また日産が同4500億円とトランプ関税の影響を見積もった。その上で、日産、マツダスバルは今期の業績見通しを『未定』としている。

日産は、抜本的な経営刷新を進めている段階であり、またマツダとスバルはアメリカ市場への依存度が高く、日本からアメリカへの輸出比率が高い。

気になる3点

各社の会見を見ながら、大きく3つの点が気になった。

1つ目は、部品メーカーに対する配慮だ。現状で、自動車部品や原材料に対するトランプ関税の動向は流動的だ。すでに一部で緩和策が示されているものの、今後の動きが見えてこない状況。そのため、自動車メーカーとしても現時点で自動車部品メーカーに対して、購入価格の交渉、また保証や補填などについて、個別に詳細を協議するのは難しいのかもしれない。

各社、トランプ関税の影響をかなり受けている。写真はマツダのメキシコ工場。
各社、トランプ関税の影響をかなり受けている。写真はマツダのメキシコ工場。    マツダ

ただし、そうした協議はティア1(大手部品メーカー)に対してであり、さらにその先の体系階層である中小企業のティア2、ティア3などには、トランプ関税の影響に関する情報が上手く伝わっていない印象がある。

さらに、一部報道で日米政府間交渉の中で『アメリカ産の日本車』の日本向け輸出という選択肢が上がっているとされる。もしそうなれば国内生産量が減り、また、資本力のあるティア1だけがアメリカで生き延びることになってしまうかもしれない。

2つ目は、中国市場への対応だ。

各社とも中国での大幅販売減について「市場の競争激化」と説明するもの、ほとんどのメーカーがその実態と今後の対応策を示していない。記者からの質問がトランプ関税に集中したこともあり、中国市場の動向が見えてこないのだ。

3つ目は、電動化。これは『EV踊り場感』が鮮明になってきたので、当初立てていた『目処』を事実上修正するとの発言が目立った。だが、EV踊り場からの出口戦略は特に提示されず、『市場任せ』という印象だ。

このように、不安定要因が多く『先行き不透明』が、今回の決算のトレンドであった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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