【どうなる欧州EV市場】このまま失速?日本は補助金5万円アップで普及進むか

公開 : 2025.02.03 07:05

欧州でのEV需要が下降傾向にあります。欧州自動車工業会が2025年1月21日に明らかにした直近12月の単月では、10.2%減の14万4367台となりました。具体的な数値を見ながら、桃田健史が日本のEV補助金事情と合わせて分析します。

直近12月はドイツで38.6%減と大きな落ち込み

欧州でのEV需要が下降傾向にある。具体的な数値について、欧州自動車工業会が2025年1月21日に明らかにした。

まず、欧州の全体需要は前年比0.8%増の1060万台。国別では、ドイツが1.0%減、イタリアは0.5%減、そしてフランスが3.2%減となった。一方で、スペインは7.1%増と堅調に市場が伸びた。また、月別で見ると、3月が前年比5.2%減、5月が3.0%減、8月が18.3%減、9月が6.1%減、そして11月が1.9%減だった。

欧州でのBEV需要が下降傾向で、特にドイツが顕著だ(写真はBMW5シリーズ/イメージ)。
欧州でのBEV需要が下降傾向で、特にドイツが顕著だ(写真はBMW5シリーズ/イメージ)。    BMW

次に、パワートレイン別ではどうか。最も多いのがガソリン車で33.3%で、ハイブリッド車も30.9%と高いシェアがある。これに対して、EV(バッテリーEV)が13.6%、ディーゼル車が11.9%、さらにプラグインハイブリッド車が7.1%と続く。

EVについては、直近12月の単月では、10.2%減の14万4367台だった。背景には、ドイツでの38.6%減という大きな落ち込みがあり、フランスでも20.7%減となった。通年の前年比では、5.9%減(144万7934台)。欧州の新車登録台数でBEVが前年割れしたのは今回が初めてだ。これまでの順調な伸びが腰折れした。

一方で、プラグインハイブリッド車の需要が着実に伸びている状況だ。12月の単月ではフランスで44.9%増と大きく伸び、ドイツでは6.8%増だった。

欧州EV市場はこのまま下降線を辿ることになってしまうのだろうか。

EV需要が踊り場になった理由

では、なぜ今、欧州EV市場が伸び悩んでいるのか。最も分かりやすい理由は、ドイツでのユーザーに対するEVの購入補助金の廃止だ。本来、2024年末まで継続されるとされていたが、1年前倒しで2023年末に終了してしまった。補助額は最大で4500ユーロ(1ユーロ162円換算で72万9000円)だった。

この補助金制度が始まったのは2016年。その後、コロナ禍での市場活性化を狙って補助金に対する予算を増強するなどしてきたが、ドイツ政府としては補助による市場拡大効果を見切ったと言える。

『ディーゼルゲート』後にフォルクスワーゲンは、V字回復のためEVシフトを掲げた(写真はID.4/イメージ)。
『ディーゼルゲート』後にフォルクスワーゲンは、V字回復のためEVシフトを掲げた(写真はID.4/イメージ)。    フォルクスワーゲン

本来、こうした補助金は、アーリーアダプターと呼ばれるコアユーザー層から一般層へと市場が拡大するまでの『呼び水』だ。需要拡大のトレンドがはっきり見えてこないならば、補助の打ち切りはやむを得ない。ただし、そうした判断が唐突であり、市場が混乱したことも事実だ。

では、ドイツを筆頭とする欧州はこれまで、EV普及に積極的な姿勢を示してきたのか。大きな転機は、2015年に発覚したフォルクスワーゲン・グループによる排気ガス規制に関する不正。いわゆる『ディーゼルゲート』と、同じ時期にパリで採択された国連気候変動条約・第21回締約国会議『COP21』での『パリ協定』による。

フォルクスワーゲンは、中期経営計画の中でV字回復のためEVシフトを掲げた。この動きに、ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)やBMWは距離をおいて冷静に見てきた。ところが、ここにユーザー視点とは大きく違う政治的な動きが生まれた……。

記事に関わった人々

  • 執筆

    桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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