【大統領就任式でEV義務化を撤回】トランプ政権発足で『EVシフト沈静化』は本当か?

公開 : 2025.01.22 11:45

トランプ大統領は現地時間1月20日に行われた大統領就任式の中で、「グリーン・ニューディール政策を終了し、EV(電気自動車)の義務化を撤回する」と発言しました。これによりEVシフトは沈静化するのでしょうか? 桃田健史が解説します。

あくまでも『EVの義務化』の撤回

アメリカのEV市場はこのまま一気に失速してしまうのだろうか? トランプ大統領は現地時間1月20日に行われた大統領就任式の中で、「グリーン・ニューディール政策を終了し、EV(電気自動車)の義務化を撤回する」と発言した。これにより、アメリカ自動車産業をさらに強固にしようというのだ。

注目されるのは、EVを完全に否定しているのではない、という点だ。あくまでも『EVの義務化』の撤回である。

バイデン前大統領の大統領令に対し、フォードとGMは実状を考えると達成は難しいと考えていた。
バイデン前大統領の大統領令に対し、フォードとGMは実状を考えると達成は難しいと考えていた。    GM

直近で、アメリカのEV義務化といえば、バイデン前大統領が2021年に出した大統領令で、「2030年までに販売される新車の50%以上をEV、プラグインハイブリッド(PHEV)、または燃料電池車(FCEV) とする」とした。ここでいう新車とは、乗用車と小型商用車を指す。こうした方針を、トランプ政権では撤回するのだ。

アメリカの自動車産業界の中でも、この大統領令に対してはフォードとGMはアメリカ社会の実状を考えると達成は難しいのではないか、という考え方を持ち始めていた。

アメリカ市場の主力モデルである、フルサイズピックアップトラックでEVを量産しても販売実績は上がらず。そのため、ミッドサイズSUVやフルサイズSUVのEV事業戦略を大幅に見直す結果となっていた。

また、トヨタを筆頭とする日系メーカー各社も、業界団体である日本自動車工業会として、マルチパスウェイを主張している。2050年カーボンニュートラルという大きな目標に対して、国や地域の社会状況に応じて電動化やカーボンニュートラル燃料を使う内燃機関などをミックスさせていくことが現実的な方法である、との考え方だ。

こうした自動車産業としての視点で見ると、トランプ第二次政権が言う『EV義務化の撤回』はけっして、全面的にネガティブな要因だとは言い切れない。

どうなるテスラ

では、テスラはどうか。アメリカ市場で最もEV販売台数が多いメーカーはテスラだ。2010年代半ば以降、アメリカを起点として、中国、欧州、そして日本とテスラ・ブランドが浸透していった。そうした事業戦略の中でキーポイントになったのは、自社独自の充電インフラサービス拡大である。

それを、他の自動車メーカーでも活用できるようNACS(ノース・アメリカン・チャージング・スタンダード)として規格化することにも成功した。先行者が事実上の標準化を獲得する、いわゆるデファクトスタンダードを実現したのだ。

テスラのイーロン・マスクCEOが、政府効率化省のトップとして政権入りするのはサプライズだった。
テスラのイーロン・マスクCEOが、政府効率化省のトップとして政権入りするのはサプライズだった。    テスラ

ただし、グローバルで見ると、中国ではBYDを筆頭として価格競争力が高いEVモデルや、エンジンを発電機として使うEVシステムであるレンジエクステンダーの需要が拡大し、テスラ有利の図式に変化が生じてきている。

そうした中で、テスラとしても事業戦略の見直しが必要な時期であり、単純に台数を追う経営から、EVを活用して新たなサービスで高い収益を上げることを目指すことも考慮し始めているところだ。2024年10月には、自動運転サービス『サイバーキャブ』を2027年から市場導入すると発表したばかり。

そして、テスラのイーロン・マスクCEOが、政府効率化省のトップとして政権入りというサプライズが起こった。日本で考えれば、マスク氏がテスラ事業戦略と連邦政府の政策推進を両立させることは不可能に思えるが、そうした立場にマスク氏を据えることができるのが、アメリカ社会と日本社会の徹底的な差であることを痛感する。

いずれにしても、マスク氏は連邦政府のEVや自動運転、さらにエネルギー政策の実状を常に把握でき得る状態になるのだから、『EVの義務化撤回』をどう解釈し、それに伴うテスラとしての事業戦略をどう描くかは、マスク氏の意識次第ではないだろうか。

記事に関わった人々

  • 執筆

    桃田健史

    Kenji Momota

    過去40数年間の飛行機移動距離はざっと世界150周。量産車の企画/開発/実験/マーケティングなど様々な実務を経験。モータースポーツ領域でもアメリカを拠点に長年活動。昔は愛車のフルサイズピックトラックで1日1600㎞移動は当たり前だったが最近は長距離だと腰が痛く……。将来は80年代に取得した双発飛行機免許使って「空飛ぶクルマ」で移動?
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事