現在のGT3へ通じる中毒性 930/968/993 難局からの脱却 クラブスポーツ・ポルシェ(2)

公開 : 2025.03.08 17:46

ステアリングへ調和するレバーとペダル

水冷化されたフラット6の排気量は、3600ccから3746ccへ拡大。964型の911 RSで初採用された、吸気マニフォールドの形状を変化させるヴァリオラム・システムも盛り込まれ、最高出力は304psを得ていた。

サスペンションは、前が30mm、後ろで40mmもダウン。マウントとクロスブレースは専用品で、アンチロールバーは調整式が組まれた。ショートレシオ化されたリミテッドスリップ・デフと、クロスドリル・ブレーキディスクも一層の速さを受け止めた。

ポルシェ911 カレラRS クラブスポーツ(993/1994〜1996年/欧州仕様)
ポルシェ911 カレラRS クラブスポーツ(993/1994〜1996年/欧州仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)/マックス・エドレストン(Max Edleston)

こんな内容もさることながら、993のRS クラブスポーツで目を引くのは、大きく広がったリアウイングと、ガラスからチラ見えするロールケージ。ドアを開くと、カーペットすらないことがわかる。

ブラックのバケットシートには、6点式ハーネスが垂れ下がる。ドア寄りのエアコンの送風口や、助手席側のサンバイザーなど、いくつかの部品も省かれている。ドアハンドルは、鮮やかなカラーのバンドが担う。

エンジンを目覚めさせると、シングルマス・フライホイールのノイズが、ザラついたフラット6の音響と重なる。ステアリングホイールは軽く、反応は繊細。シフトレバーとペダルの感触が、それと調和している。

ポルシェらしい咆哮で回転数は高まり、刺激的にクレッシェンド。6800rpmのリミッターは、不当に低く設定されたように感じてしまう。2速で引っ張れば、120km/h。RS クラブスポーツは地面を這うように、ひたひたとアスファルトを捉え続ける。

現在のGT3へ通じる中毒性の強い体験

グリップ力は揺るぎなく、フロントノーズの反応はシャープ。ステアリングホイールへフィードバックが伝わり、僅かにボディロールしつつ、ニュートラルに旋回していく。カーブの途中にある凹凸は無視できる。

アクセルペダルを傾けると、驚くほどのトラクションで応える。タイヤのブロックの状態すら、引き締まったシャシーを通じて感取できる。もう少しだけ、攻め込む余地があることも。

イエローのポルシェ911 カレラRS クラブスポーツと、ホワイトのポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ
イエローのポルシェ911 カレラRS クラブスポーツと、ホワイトのポルシェ911 カレラ3.2 クラブスポーツ    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)/マックス・エドレストン(Max Edleston)

精度と奥深さを完全に味わうべく、僅かにプッシュ。RS クラブスポーツは、更に操縦へ忠実に反応する。ステアリングホイールやアクセルペダルへ与える小さな角度で、コーナリングラインを調整できる。現在のGT3へ通じる、中毒性の強い体験といえる。

それは、Gシリーズの930型911 カレラ3.2 クラブスポーツにも通じる。爽快に吹け上がる空冷エンジンに、繊細な反応を示すシャシーというペアリングで、クラシック911の理想像を織りなしている。

対してFRの968 クラブスポーツは、ゼロから根強いファンを構築した。突出して高バランスのポルシェは、一度乗れば手放せなくなるに違いない。

とはいえ、993型911 RS クラブスポーツは今回の3台でも特段に没入型。スリリングな操縦性と、ダイナミックな洗練性が、高次元で融合している。

程なくして、911はGT3とGT2が牽引した。しかしサーキット志向として、ポルシェが困難な時期にドライバーを魅了したのはクラブスポーツだ。特別な「クラブ」会員になることで、走りへの情熱を高く保つことが可能だった。

協力:ポルシェ・クラブGB

記事に関わった人々

  • 執筆

    アーロン・マッケイ

    Aaron McKay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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