GT3以外で唯一、MTを選べる992.2のT

ポルシェのバリエーションがややこしいと、お感じの読者は少なくないだろう。確かに、356の時代はずっと単純だった。ところが、ブランドファンの1人である筆者も、最近は少し追いきれなくなって来た。

以前と同様に現行の992型でも、当初はGTSが純粋なドライバーのスイートスポットになっていた。必要な装備はくまなく備えつつ、不必要なものは付いてこなかった。ところがフェイスリフト後の992.2型では、ハイブリッド化されている。

かつての911 ターボは、唯一、ターボチャージャーを積んだ911だった。ところが最近は、バッテリーEVのタイカンでもターボを名乗っている。非常に速いポルシェであることを、表現する単語になってしまった。

一方で、カレラTは？　これまで、少しアイデンティティが曖昧だったといっていい。

クロスオーバーのマカンにも、「T」は存在する。こちらは、ベーシックな4気筒ターボエンジン仕様をベースに、装備を充実させたものといえる。対する911 カレラTは、マニュアル・トランスミッションを装備した、純粋主義向きと表現できるようになった。

通常の911 カレラと異なり、リミテッドスリップ・デフやアップグレードされたPASMスポーツ・アダプティブダンパーも装備する。窓ガラスの厚みが減らされ、防音材の一部が省かれ、40kgほど軽量化されてもいる。

ただし後輪操舵システムも標準装備され、その効果は相殺されている。今回新たに設定されたカブリオレでは、車重が90kg増え、結果的にプラス50kg。車重は1580kgある。

7速から最上段のギアを省略　ロングレシオ

それでもGT3以外で唯一、クラッチペダルを踏める911だ。デュアルクラッチAT、PDKは、最初からカレラTの選択肢には含まれていない。

以前は911のデフォルトといえたMTは、近年はコダワリ派が選ぶユニットへ変化。走り好きが多い英国でも、一部のドライバーが選択するに過ぎないという。むしろ北米市場の方が、その割合は高いとか。

だとしても、MTを擁することは今では強みといえる。ポルシェは、オプションリストに埋もれさせるのではなく、特徴的なアイテムとして目立たせることにしたようだ。

992.2型カレラTに搭載されるユニットは、6速。シフトパターンのステッカーやシフトアップ・インジケーターが、これまで多くのドライバーが受け入れ適応してきた、従来の7速ではないことを教えてくれる。

これは、911 GT3由来の6速MTではない。従来の7速MTから、最上段のギアが省かれたもの。1速から6速までのギア比は変更されておらず、比較的ロングレシオなことにも変わりはない。

2速でレブリミットまで引っ張れば、スルスルと114km/hへ到達。110km/hでの高速巡航は、6速なら2500rpmでこなす。最高速度は、292km/hに設定される。

筆者は、992型の運転体験はMTの方がベターだと考えてきた。そして、992.2型でもそれは同じ。最新の911が大好きで、MTが嫌いではなく、しっかり味わいたいとお考えなら、カレラTをきっと気に入るはず。

画像　有能ぶりが一層際立つMT　ポルシェ911 カレラT カブリオレ　競合クラスのオープンと比較　全137枚