【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#11 設計は間違いなく大貴族!

公開 : 2025.06.06 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、毎週金曜日掲載の連載です。第11回は『設計は間違いなく大貴族』を語ります(次回から隔週掲載です)。

いよいよ2度目の試乗!

車両本体200万円で購入した、『大貴族号』こと先代マセラティクアトロポルテ。購入直後に試乗し、パワートレイン系は健全ながら、内外装とサスペンションがかなり没落していることを確認した。

その後、購入先であるマイクロ・デポのタコちゃん(岡本和久代表)が整備に取りかかり、フロントサスのラバー類全交換が終わったところで、2度目の試乗となった。

清水草一が購入した『大貴族号』こと先代マセラティ・クアトロポルテに2度目の試乗。
清水草一が購入した『大貴族号』こと先代マセラティ・クアトロポルテに2度目の試乗。    清水草一

折り悪く、私はフェラーリ328GTSの車両火災直後。大貴族号を発進させて間もなく、強いPTSDに襲われた。

世代が違うとはいえ、同じフェラーリ系のイタリア車だ。燃えはしないにせよ、とんでもないトラブルに襲われるのではないかという恐怖で頭がいっぱいになり、額から脂汗が滲む。

なぜそんな思いまでして、古くて信頼性の低いイタリア車に乗るのか。バカじゃないか。そう思われる方もいるだろう。

しかし今の私の生活には、リスクというものがない。これが唯一の冒険。つまりロマンなのだ!

こんな状態になったクルマ見たことない!

今回の試乗で私が確認したかったのは、前回の試乗でサスペンションが発した『タタタタタタタタ!』という音と振動が、どう変化したかだった。

サスがほとんどストロークしていないのに、あんな聞いたこともない音が出るのは、フロントサスの付け根? が完全に没落し、ボディと干渉しているからじゃないか。そんな気がしたが、タコちゃんは前後サスのラバー類をすべて交換するという。

フロントサスペンションのパッドがボロボロに劣化し、一部崩壊……。
フロントサスペンションのパッドがボロボロに劣化し、一部崩壊……。    岡本和久

まずフロントを外してみたら、パッドがボロボロに劣化し、一部崩壊していた(画像参照)。こんな状態になったクルマ見たことない! たったの18年しか経ってないのに!

私はかつて、フェラーリ512TRのサスペンションブッシュを全交換したが、多少の硬化はあったものの、形はぜんぜんちゃんとしていた。

先代クアトロポルテは、マセラティがフェラーリ傘下で開発したクルマだ。同時期のフェラーリのサスがグズグズのボロボロになったなんて聞いたことない。なぜこんなになっちゃうの!? この個体特有のもの!? やっぱ自動車ラスト・ロマンだから!? ありがたくて涙が出る。

スピード出したらタイヤが取れるかも!

根拠のない重大トラブルの恐怖と戦いながら、大貴族号で環状八号線を流す。幸いにも大きな渋滞はない。サスからの『タタタタタタタ!』という音も、大幅に減っていた。オレとタコちゃんの見立ては、大筋で当たっていたようだ。

そのまま東名に乗り入れ、「ETC動くかな」と根拠なくビビりながらゲートを通過。渋滞5キロの表示に再びビビりながら突入し、デュオセレクトをいたわるべく、極力停止しないように細心の注意を払ってノロノロ通過。

ビビりながらずんずん進み、大貴族号はステキな海岸に到達!
ビビりながらずんずん進み、大貴族号はステキな海岸に到達!    清水草一

無事渋滞を抜け、「スピード出したらタイヤが取れるかも」とビビりながらずんずん進み、大貴族号はステキな海岸に到達した。なにせロマンなので、海を見に行きたかったのである。

そこまで走ってわかったのは、『タタタタタ!』という連続的な音は消えたものの、大きめの凹凸を乗り越えると、『ガコン!』という音と振動が、運転席の真下あたりから尾てい骨に響いてくることだった。

こんなところにサスないよな。でもまあ、これってリアサスからフレームに伝わる衝撃かも? こんなの経験したことないからわかんないけど。さすが自動車ラスト・ロマン!

私はフロントサス(特に左)だけが問題かと思ったが、どうやらタコちゃんの『前後サスのラバー類全とっかえ』は正しい選択だったようだ。前がグズグズのボロボロなら、後ろだってグズグズのボロボロだよね! 後ろのほうが重いクルマだし! さすがフロントミドシップのトランスアクスル! 設計は間違いなく大貴族!

(つづく/次回から隔週金曜日掲載となります。第12回は6月20日公開予定です)

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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