「意外な層」に売れている米国スバル 小さな町で見た自由の音色 英国記者の視点

公開 : 2025.07.02 18:45

なぜ「リベラル」にウケるのか?

これはまったくの偶然ではない。1990年代、現地法人スバル・オブ・アメリカは、自社のクルマの購入者を調査したところ、顧客として想定していた退役軍人、アウトドア派、教師などの層に加え、予想外の層もいることがわかった。レズビアンだ。

スバルとマーケティング会社が詳しく調べたところ、納得のいく理由にたどり着いた。この層は、収入が比較的安定しており、子供のいるケースも少ない、アウトドア好きの女性たちだった。そんな彼女たちが、スバル車を購入していたのだ。

中央広場の店には、「米国を再びグルーヴィーに」と書かれたTシャルが売られていた。
中央広場の店には、「米国を再びグルーヴィーに」と書かれたTシャルが売られていた。    AUTOCAR

スバル・オブ・アメリカは、保守的な地域では反発を受けるかもしれないが、この層を対象とした広告を打ち出し、カントリーワゴンとしてのクルマの良さをアピールするとともに、さりげなく売り込むべきだと考えた。

ある広告では、「外に出ろ、戻ってくるな(Get out, and stay out)」と謳った。別の広告では、「これは選択ではない、わたし達の本質だ(It’s not a choice, it’s the way we’re built)」と掲げ、4WDの駆動システムをアピールした。2004年のフォレスターの広告は安全性をテーマに掲げながら、「少なくとも当社は “プライオリティ” を正しく理解している(At least we’ve got our “priorities” straight)」と主張した。

英国部門のスバルUKが、彼女ができない若い男性にインプレッサ・ターボを売り込んでいた一方、スバル・オブ・アメリカは彼女ができる女性にアウトバックを販売していた。

同社はこうした広告キャンペーンが賛否両論を招く可能性があると考えていたが、その懸念は的中した。ターゲット層かどうかに関わらず、多くの消費者が広告を楽しんだ一方で、保守派からスバル車のボイコットを示唆する苦情の手紙も届いた。ただし、調査結果を見る限り、そのような手紙を送った人は、これまでスバルを購入したことがない人だろう。

そして、スバルは広告によって2000年代前後の米国での評判を高め、現在もそのポジションを維持している。リベラルな人はスバルを購入する可能性が高く、保守的な人はスバルに反対する傾向がある。

世論調査会社ユーガブの2024年の派閥別ブランドランキングによると、「リベラルな米国人の28%(および同性愛者の女性の33%) がスバル車の購入を検討しているのに対し、同じ考えを持つ保守的な米国人は16%しかいない」という。スバルのこの12ポイントという差は全自動車メーカー中トップで、ホンダ(10ポイント差)やフォルクスワーゲン(8ポイント差)を上回っている。

保守派が特に好むブランドであるフォードシボレー、GMCについては、その差は小さい。例えば、保守派の29%がフォード車の購入を検討する一方で、リベラル派の23%が同じく購入を検討している。

もちろん、米国北東部でスバルを所有する実用的な理由もある。この地域は冬になると雪が多く降り、本格的な四輪駆動システムが求められるからだ。

しかし、米国の小さな町のほとんどがデトロイトのV8エンジンの轟音で賑わう中、ウッドストックのボンゴの音色にスバルのオールシーズンタイヤの音が静かに伴っているのは、実用的な理由だけでは説明できない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マット・プライヤー

    Matt Prior

    役職:編集委員
    新型車を世界で最初に試乗するジャーナリストの1人。AUTOCARの主要な特集記事のライターであり、YouTubeチャンネルのメインパーソナリティでもある。1997年よりクルマに関する執筆や講演活動を行っており、自動車専門メディアの編集者を経て2005年にAUTOCARに移籍。あらゆる時代のクルマやエンジニアリングに関心を持ち、レーシングライセンスと、故障したクラシックカーやバイクをいくつか所有している。これまで運転した中で最高のクルマは、2009年式のフォード・フィエスタ・ゼテックS。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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