キャデラック風味のリムジン ベントレー・スピードシックス(1) 一線画す6.6L直6エンジン

公開 : 2025.08.02 17:45

アメリカン・ボディのベントレー ル・マン勝利に向けて生まれたスピードシックス ライバルと一線画す直6エンジン オーナーのカリスマ性が滲み出る存在感 UK編集部が無二のリムジンをご紹介

キャデラック風の趣きを漂わせるベントレー

世界が不況に苦悶していた、1930年代。ベントレーのビッグサルーンは、アメリカ・ニューヨークで際立つ存在だった。切り立ったラジエターグリルに、輝くメッキトリム。摩天楼の谷間をすり抜ける中に、キャデラック的な趣きを漂わせる1台があった。

今回ご紹介するベントレー・スピードシックスは、今も昔も唯一無二。アメリカ・ペンシルベニア州のコーチビルダー、チャールズ・シュッテ・ボディ・カンパニー社製のボディが架装されている。同社がベントレーを手掛けたのは、これが初めてだった。

ベントレー・スピードシックス・チャールズ・シュッテ(1930年/北米仕様)
ベントレー・スピードシックス・チャールズ・シュッテ(1930年/北米仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

前例のない英米融合のリムジンを注文したのは、ルース・ヴァンダービルト・トゥオンブリー氏。史上最も裕福なアメリカ人の1人として数えられる鉄道王、コーネリアス・ヴァンダービルト氏のひ孫にあたった女性だ。

彼女は生涯、慈善活動に情熱を注いだ。「決して脚光を浴びようとはせず、精力的に働き、ニューヨークに暮らす家族の健康向上のため、多くの委員会で活躍しました」。1954年の新聞、ニューヨーク・タイムズの訃報記事で、こう紹介されている。

15台のクルマを所有したオーナーの母

とはいえ裕福なことに変わりはなく、ニューヨーク・マンハッタンの5番街とロードアイランド州に構えた自宅を、何度もスピードシックスで往復したに違いない。母親が住むニュージャージー州の邸宅も、足繁く訪れていた。

英国ブランドへルースが関心を抱いたのは、母親、フローレンスの影響だったと考えられている。彼女は15台のクルマを所有し、ロールス・ロイスが6台も含まれていた。

ベントレー・スピードシックス・チャールズ・シュッテ(1930年/北米仕様)
ベントレー・スピードシックス・チャールズ・シュッテ(1930年/北米仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

ルースはスポーツカーを好み、ベントレーを選んだようだ。シャシー番号はHM2854。スピードシックスは合計182台作られているが、3875mm(12ft 8.5in)というロング・ホイールベースは24台だけ。その内の1台が、彼女のクルマだった。

ル・マン勝利に向けて生まれたスピードシックス

ホモロゲーション仕様という言葉が誕生する以前から、このベントレーは特別だった。ブランド創業者のWO.ベントレー氏は、ル・マンでの勝利には実用性も備えたレーシングカーが必要だと考え、1929年に既存モデルの6 1/2リッターの高性能化を進める。

そのスピードシックスは、1928年のロンドン「オリンピア」・モーターショーで発表。当時のル・マンの規則では、公道モデルとして販売する必要があり、当初はホイールベース3505mmのシャシーのみの設定だった。

ベントレー・スピードシックス・チャールズ・シュッテ(1930年/北米仕様)
ベントレー・スピードシックス・チャールズ・シュッテ(1930年/北米仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

6.6Lエンジンには1基のスミス・キャブレターではなく、2基のSUキャブレターが載り、最高出力は標準の149psから162psへ強化。1929年には、新しい吸気マニフォールドが開発され、182psへ向上している。

見た目の特徴は、両サイドが直線的に傾斜したラジエターグリル。軽いツアラーボディなどが想定されていたが、長いサルーンボディの架装を希望する人も程なくして現れた。そんな1台、シャシー番号HM2854は、1930年6月にラインオフしている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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