【現役デザイナーの眼:新型マツダCX-5】3代目を速攻分析!シルエット優先のエクステリア、勝負のインテリア

公開 : 2025.07.10 17:00

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎が今回取り上げるのは、欧州で新型が発表された3代目マツダCX-5です。情報解禁時間に合わせて、速攻分析。今回はエクステリアはもちろん、インテリアにも注目のようです。

マイルドになった魂動デザイン

マツダが『魂動デザイン』と言うようになって、すでに15年ほど経ちました。マツダのWEBページには『生命感を形にする』と言う文言がありますが、躍動感あるシルエットや大胆な面構成、リフレクションの動きでそれを表現しています。

数年前にマツダ3ファストバックやCX-30が出た時、これは魂動デザインの完成形ではないかと思いました。すべてにおいて高次元で表現されているので、この後どうするのだろう? と勝手に思っていたんです。これ以上の進化が想像できないというか……。

新型(上)と先代(下)の比較。リアゲートガラス角度やサイドガラスのラインを見ると、先代より空間を重視しているシルエットになっている事が分かる。
新型(上)と先代(下)の比較。リアゲートガラス角度やサイドガラスのラインを見ると、先代より空間を重視しているシルエットになっている事が分かる。    マツダ

それくらいマツダのデザインに対して期待値が高いのですが、新型CX-5を初めて写真で見た感想は『マイルドになったな』と言う事でした。いや、先代に対してではなくマツダの『新しい作品として』と言うことです。

まず、全体の印象からですが、パッと見、先代とかなり近いイメージを持ちました。公表されている諸元を見ると、全長は100mm以上伸びていますが(新型は4690mm、先代は4575mm)伸びやかさよりも凝縮感を感じさせていて、この辺りは上級車種であるCX-60と狙いの違いがあると思います。

サイドシルエットが特に先代の印象が強いのですが、ややリアゲートガラスが立ったように思います。先代はかなり寝ていたので競合よりもタイトなキャビンでしたが、新型はもう少し室内空間を意識したシルエットにしたのかもしれません。サイドガラスのグラフィックも、先代よりリアにかけての落ち込みが少なく、特にリアドアの乗降性を向上させたのではないでしょうか。

サイド面のメインテーマで言うと、先代はかなり面も線も変化をつけ、その結果リフレクションが大胆な動きをしていたのに対し、新型ではまずショルダーラインを前後にしっかり通し、その範疇で面変化を行なっている感じです。ですので先代より端正な印象になり、逆に言うとダイナミックさは薄れたと思いました。

日本では未発表ですが、EVのセダンであるマツダ6eでも同様の構成ですので、新しい魂動デザインは従来よりもう少し動きを抑えたデザインということが言えます。

設定要件との葛藤や工夫が見える前後

フロントは、シルエットが大きく変わりました。先代と比べるとバンパー下半分がかなり出っ張った形状をしており、ここは年々厳しくなる衝突関係の設計要件が起因しているかもしれません。

ただ、これにより、スポーティで明快だった先代と比べると、ボンネットからバンパーへ向かうシルエットからタイヤへの繋がりが悪く、プロポーションの良さをややスポイルしています。本当は公表されたスケッチくらいの印象に留めておきたかったと思いますが、フロントは厄介な事が多いんです。

スケッチ(左)と実車(右)の比較。バンパー下部の張り出しはスケッチくらいのシルエットが理想なのだが、さまざまな要件がある中、一筋縄ではいかない。
スケッチ(左)と実車(右)の比較。バンパー下部の張り出しはスケッチくらいのシルエットが理想なのだが、さまざまな要件がある中、一筋縄ではいかない。    マツダ

ヘッドライトは、グリルの輪郭と絡んだ、印象的なデザインです。この構成はヘッドライト内側が縦に厚くできるので、ここに灯体や機能を集約することによりランプ外側は薄くでき、機能とデザインを両立した優れたアイデアだと思います。

最近はランプを薄く見せる工夫として2部品構成にしたデザインが多いのですが、マツダはミニマルで新しい提案をしています。

リアのデザインは、ショルダーからの勢いが抜けるようなシルエットになりました。ここは、先代ではコーナー部がかなり削られていたせいかシルエットに抜けた印象が弱く、私的に少しだけ疑問でした。それが新型では明快なシルエットになり、とても分かりやすくなっています。

一方でその結果かもしれませんが、リアゲートの段差感が先代より目立つような気がします。先代はとにかく綺麗なひとつの塊を意識していた感じがするのですが、新型は前述のようにシルエットの方を優先的に意識しているように思います。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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