まるでチョップドルーフ スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ(2) ロンドンでベントレーの聖地巡礼

公開 : 2025.08.30 17:50

フランスの急行列車へ挑み、大差で勝利したスピードシックス チョップドルーフのようなシルエットのクーペ「ブルートレイン」 EXP 15の着想元 UK編集部がベントレーでロンドンの聖地巡礼

チョップドルーフのようなシルエット

スタートは午前9時。ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」は、どんよりした光を受けて鈍く輝く。ガーニー・ナッティング社製のボディは、現代の基準でも相当に大きい。

長いボンネットの内側には、6.5L直列6気筒エンジンが収まっている。ワイヤーホイールも巨大。ルーフラインは新鮮なほど低い。アメリカン・カスタムカーの、チョップドルーフのように。それでも全高は、筆者の身長より高い。

ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」(1930年式)
ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」(1930年式)

スビードシックスの場合、ツインSUキャブレターとハイカムで、最高出力は182psに達していた。フランス・カンヌから英国ロンドンを目指したサルーンは、200psを軽く超えていたという。

最新の6気筒と比較すると、スムーズとはいえない。排気量は6597ccで、1気筒当たり1100cc近くある。100mmのボアに対し、140mmのストローク。トルクが極めて太く、放たれるノイズは荒々しい。アイドリング時でも、13.8kg-mあるとか。

古いものへ愛着が湧くという人間の心理

本日のドライバーは、リチャード・チャールズワース氏。ベントレーの英国王室担当者で、クラシック・ベントレーの運転に関しては、右に出る者はいないだろう。

最初の目的地は、1kmも離れていないグロブナー・スクエア。その一角に、ベントレーズ・コーナーと呼ばれる駐車場がある。路肩へ少し乗り上げ、ブルートレイン・スペシャルを停める。観光客が近寄ってくるが、機関銃を下げた警察隊は見守るだけだ。

ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」(1930年式)
ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」(1930年式)

クラシックカーは、大半の市民から歓迎される。古いものへ愛着が湧くという、人間の心理がここでも証明される。

写真撮影を終えて、再びロンドンの交通へ紛れる。ルーバーが並んだボンネット越しに、ディナープレートほどある大きなヘッドライト・カウルが煌めく。

車重と肉厚なタイヤがフラットにいなす

混雑した都心部で貴重なクルマを操るには、それらへ慣れている必要がある。ステアリングホイールは呆れるほど重く、小回りはまったく利かない。クラッチとトランスミッションの操作へ、かなりの時間が費やされる。

エンジンは粘り強く回るが、シフトレバーはニュートラルで一度止めなければならない。後ろから煽られても、慌てて加速するのはご法度。ブレーキペダルも、無駄には踏めない。効きは強いが、車重は3トン近くある。

ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」(1930年式)
ベントレー・スピードシックス・スポーツマンズ・クーペ「ブルートレイン・スペシャル」(1930年式)

乗り心地は良い。空間は広々としていなくても、適度に包まれ感のあるバケットシートへ体を預けられ、両足は真っ直ぐ伸ばせる。サスペンションは独立懸架式ではないが、車重と肉厚なタイヤ、長いホイールベースがフラットにいなす。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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