創業者一族が語る「家族経営」にこだわる理由 122年の歴史、フォード会長独占インタビュー

公開 : 2025.08.12 06:45

1903年の創業以来、一族によって経営されてきたフォード。創業者のひ孫で、現会長を務めるビル・フォード氏と、彼の息子たちに独占インタビューを実施。家族経営の利点や難点、今後の課題について尋ねました。

米国最大級の自動車メーカー

120年前、自動車がまだ目新しいものだった頃、何百人もの熱心な若者たちが、自分で設計した自走式の乗り物を作ることに没頭していた。米国ミシガン州ディアボーンのヘンリー・フォードもその1人だった。

彼らは皆、自動車に自分の姓を使うという共通点があった。1903年にフォード・モーター社が創業した当時、世界にはダイムラー、ベンツ、プジョー、パナール、ルノーオペルダッジ、ランチェスターといった自動車メーカーが存在していた。

1903年の創業以来、フォードは一族によって経営されてきた。(画像はマスタング・ダークホース)
1903年の創業以来、フォードは一族によって経営されてきた。(画像はマスタング・ダークホース)

かつては創業者一族によって経営される企業が一般的だったものの、近年では家族や財務の分散化により、そのような企業はごくわずかになっている。フォードは、創業以来(122年以上)創業者一族によって経営・運営されてきた数少ない大手自動車メーカーだ。

現在フォードを支えているのは、19年間にわたって会長を務めるウィリアム・クレイ・フォード・ジュニア氏、通称『ビル』だ。

7月に英国で開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードには、同氏が34歳の息子ウィルと29歳の息子ニックを伴って登場した。2人は最近、自動車業界以外の分野でキャリアを積んだ後、フォード・モーターに入社したばかりだ。

筆者(AUTOCAR英国編集長)はこの機会を利用して、3人に幅広い話を聞くことができた。最初の、「なぜここ(英国)にいるのですか」というやや無礼な質問に対し、彼らは快く答えてくれた。

3人は、グッドウッドで格好いいクルマやトラックを鑑賞するため、そしてフォードの商用車事業の基盤であるバン『トランジット』のデビュー60周年を祝うために英国を訪れたと語った。

また、2026年シーズンのF1パワーユニットパートナーであるレッドブル・レーシングにも訪問する予定だったという。インタビュー時、レッドブル・レーシングのCEO兼チーム代表であるクリスチャン・ホーナー氏が解任されたばかりだった。しかし、ビル氏は、この3人でのツアーの大きな目的は家族の歴史を公に示し、家族ブランドを体現することにあると、はっきりと述べた。

創業者の意志を受け継ぐ現会長

ビル氏にとって、家族経営を維持するのは権力や利益のためだけではない。彼の曾祖父ヘンリーは、現代の価値観では受け入れられない考え方で批判されることもあるが、数多くの慈善事業に資金を提供し、フォードの使命は世界をより良いものにすることだと信じていた。

彼の意志を受け継いだビル氏の慈善活動も多岐にわたるが、最近よく知られているのは、デトロイトのコルクトン地区にあるミシガン・セントラル鉄道駅を、5億ポンド(約1000億円)以上を投じて再生させたプロジェクトだ。この駅は75年にわたり稼働していたが、1980年代に廃止されたままになっていた。

フォードの創業者ヘンリー・フォードと『モデルT(T型)』
フォードの創業者ヘンリー・フォードと『モデルT(T型)』

フォードは2018年に駅の建造物を7500万ポンド(約150億円)で買い取り、グーグルなどの企業が入居する巨大なハブ施設として蘇らせた。昨年オープンし、最初の週に10万人以上の訪問者を集め、不況に苦しむ同地区に大きな利益をもたらしている。

「こんなことを始めるなんて、狂っていると言われました」とビル氏は語る。「ですが、わたしはデトロイトとミシガン州、そしてそこで働く従業員たちにとって良いことだと思いました。地域もこのプロジェクトを支持しています」

フォードの家族経営を維持する上で、もちろん厳しい側面に向き合うこともある。

「現在の一般的なCEOの平均在任期間は約4年です。つまり、企業は常にギアチェンジを迫られるのです。新しいCEO、新しい計画、新しい戦略、新しいチーム。当社のような所有形態は、単なる安定感だけでなく、長期的なビジョンも生み出すと思います。名前も顔も知られず、ある意味人間味のない企業があふれる世界において、フォードはそうではありません」

「ここにファミリーの存在があることは皆知っています。わたし達には責任があります。わたし達の名前も製品に刻まれています。そして、わたし達が製品に深く関わっていることを皆知っています」

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブ・クロプリー

    Steve Cropley

    役職:編集長
    50年にわたりクルマのテストと執筆に携わり、その半分以上の期間を、1895年創刊の世界最古の自動車専門誌AUTOCARの編集長として過ごしてきた。豪州でジャーナリストとしてのキャリアをスタートさせ、英国に移住してからもさまざまな媒体で活動。自身で創刊した自動車雑誌が出版社の目にとまり、AUTOCARと合流することに。コベントリー大学の客員教授や英国自動車博物館の理事も務める。クルマと自動車業界を愛してやまない。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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