【連載:清水草一の自動車ラスト・ロマン】#17 コロンブスの卵!

公開 : 2025.08.29 12:05

自動車はロマンだ! モータージャーナリストであり大乗フェラーリ教開祖の顔を持つ清水草一が『最後の自動車ロマン』をテーマに執筆する、隔週金曜日掲載の連載です。第17回は『コロンブスの卵!』を語ります。

いざ、カーマニアの聖地へ!

大貴族号こと先代マセラティクアトロポルテ・スポーツGT(デュオセレクト)は、新車価格1540万円。それが18年後に200万円まで暴落したのは、誰もが故障を恐れているからだ。そこにロマンを感じて購入したわけだが、そんな私も故障にビクビクしまくっていた。

今回の箱根遠征(編集担当注:撮影にお誘いしました)もすべてがビクビクもの。給油口が開かなかっただけで、この世の終わりのようにビビッたことについては、前回報告した通りだ。

大貴族号こと先代マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGTで箱根へ!
大貴族号こと先代マセラティ・クアトロポルテ・スポーツGTで箱根へ!    神村聖

さて、箱根はカーマニアの聖地。クルマの走りを知るために、これ以上の舞台はない。

しかし大貴族号について、モータージャーナリスト的なインプレッションを行うのは到底ムリと感じていた。なぜってコワイから!

大貴族号は怖くてムリ!

まず、アクセルを全開にするのがコワイ。そんなことをしたら、フェラーリV8が爆発しそうな気がする。実際のところ、購入以来まだ一度もアクセルを全開にしていない。

これまで所有したフェラーリはすべて、可能な限りアクセル全開でレッド寸前までブチ回し、官能的なフェラーリ・サウンドに打ち震えてきた。でも大貴族号は怖くてムリ! さすがは自動車ラスト・ロマンだ。格が違う。

購入以来まだ一度もアクセルを全開にしていないという大貴族号。
購入以来まだ一度もアクセルを全開にしていないという大貴族号。    神村聖

もちろんコーナーを限界域まで攻めるなんてダメ、絶対! そんなことをしたらボディがバラバラになっちゃうかも!

大貴族号のサスペンションは、まだ時たま『ドシャン!』と悲鳴を上げる。四輪サスのラバー部全とっかえで、『タタタタタタ!』という激しい音と振動は消えたが、ダンパーはそのまんまだ。

スッポン丸こと我がフェラーリ328GTSも、買った当時はガツンと突き上げがあり、ダンパーオーバーホールで乗り心地や直進性、操縦性、すべてが改善された。大貴族号も、そこまでやらないとダメか。このまんまでコーナーを限界域まで攻めるなんて怖すぎる。

そもそもコレは、若くてピチピチしたニューモデルじゃない。自動車ラスト・ロマンなのだ。故障せずに無事に走ってくれれば、それ以上何を望むだろう。

給油口のフタが気になるぜ!

ということで私は、撮影中も常にデュオセレクトのクラッチをいたわり、穏やか~に、優し~く走った。クラッチをなるべく滑らせないように発進すると非常に遅く、カメラカーについていけないけど、気にしない。常日頃から青信号で軽にちぎられまくって慣れてるぜ!

それにしても、さすがフェラーリ製V8。2トンのボディに対して、驚くほど低速トルクが薄い。後期型が排気量を4.2Lから4.7Lに増やした理由がよくわかる。4000rpm以上回せば、控え目な快音が心地いいが、トランスアクスルの良好な前後重量配分がもたらす(はずの)コーナリング性能なんて、サッパリ体感できなかった。そんな小さなことより、給油口のフタが気になるぜ!

給油口にテニスボール……の理由は文中で!
給油口にテニスボール……の理由は文中で!    清水草一

撮影の合間にフタを観察したところ、ボタンを押すと0.3秒間くらいノッチが引っ込み、その間にバネの力でフタが開く構造になっていた。バネが死んでると、閉まったまま何も起きないので、トランクの赤いヒモを引っ張る必要が生じる。

バネはフタのヒンジ部に仕込んであるので、自力じゃ交換できないし、純正品のバネの入手自体、難しい気がする。

30年くらい前、フェラーリ348tbのドアミラー内部のバネが折れてブラブラになった時は、アッセンブリー交換で10万円くらい取られた。さすがフェラーリ様。マセラティ様もそんな感じかも。何か代わりの策はないか……。

そうだ! フタの中に、何か弾力性のあるブツを入れときゃいいんだ! ボールとか!

帰宅後、子犬用のオモチャのボールを入れてボタンを押したら、見事に開いた! うおおおお、感動。またも大勝利!

記事に関わった人々

  • 執筆

    清水草一

    Souichi Shimizu

    1962年生まれ。慶応義塾大学卒業後、集英社で編集者して活躍した後、フリーランスのモータージャーナリストに。フェラーリの魅力を広めるべく『大乗フェラーリ教開祖』としても活動し、中古フェラーリを10台以上乗り継いでいる。多くの輸入中古車も乗り継ぎ、現在はプジョー508を所有する。
  • 撮影

    神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

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